本当の意味で投資信託の人気度を測るには?資金流出が続いているファンドの末路

前回、純資産総額が1億円にも満たない、生きているのか死んでいるのか分からないような投資信託がたくさんあるという話をしましたが、純資産総額だけでは、その投資信託が本当に人気化しているのかどうか分からない面があります。本当の意味で投資信託の人気度を測る方法を考えてみました。


前回記事:長期保有しても無意味な投資信託とは?ゾンビファンドが存続している理由

純資産総額と基準価額、受益権口数の関係を理解しよう

まず純資産総額とは何かを考えてみましょう。純資産総額は、投資信託に組み入れられている株式や債券の時価総額です。つまり現在、どれだけの価値を持っているのかを表します。

そして、この純資産総額を受益権口数で割って求められるのが「基準価額」です。投資信託に組み入れられている株式や債券が値上がりすると基準価額も値上がりするのは、これら組入資産の値上がりによって純資産総額が増えるからです。

ちなみに受益権とは、投資信託の運用によって生じた運用益を受け取る権利で、かつては「受益証券」という本券を発行していましたが、今は有価証券の電子化が行われたため、紙ベースの受益証券は存在しません。

とはいえ、個々人がその投資信託を何口保有しているのかを示す必要があるため、「受益権口数」が計算されています。

純資産総額は組入資産の値上がり・値下がりだけでなく、資金の流出入によっても増減します。ただし新規設定・解約によって資金の流出入が生じた場合、確かに純資産総額も増減しますが、同時に受益権口数も増減するため、それが基準価額の値上がり・値下がりに影響することはありません。基準価額の値上がり・値下がりは、あくまでも投資信託に組み入れられた資産の値上がり・値下がりによってのみ起こります。

ちょっとややこしい話になってしまい恐縮ですが、個別に投資信託の人気度を測るためには、純資産総額と基準価額、受益権口数の関係を理解しておくと便利です。

純資産総額が大きければ人気があるのか?

よくこんなことを言う人がいます。

「純資産総額が大きいファンドは人気がある証拠」。

確かに、純資産総額が大きいということは、相応に資金が集まっているわけですから人気が高いと言えないことはないのですが、これは純資産総額の一側面しか見ていない物言いといってもよいでしょう。

純資産総額は資金の流出入で増減します。新規資金がどんどん入れば純資産総額は増加するので、純資産総額の大きな投資信託はそれだけ「買う人が多い=人気が高い」と考えることが出来ます。

でも、純資産総額は資金の流出入以外の要因でも増減します。

もうお分かりかと思いますが、組入資産の値上がり・値下がりによっても増減するのです。仮に、全く資金の流出入が生じず、結果、受益権口数が変わらなかったとしても、ファンドの組入資産が値上がりすれば純資産総額は増加しますし、逆に組入資産が値下がりすれば純資産総額は減少します。

実例として、ある日本株ファンドの純資産総額を見てみましょう。2021年10月1日時点の純資産総額は3,502億1,800万円。日本株ファンドで純資産総額が3,000億円超えですから、人気の高い投資信託のように見えます。ちなみに2011年11月1日時点の純資産総額は2,034億6,400万円でしたから、この10年間で1,467億5,400万円も増えたことになります。この数字だけを見ると、人気のあるファンドだと思う人は少なくないでしょう。

投資信託の人気は受益権口数の増減で見る

でも、ここで注意しなければならないのは、この10年間で株式市場全体も大きく値上がりしたということです。

2011年11月1日の日経平均株価は8835.52円でした。それが2021年10月1日時点では2万8771.07円ですから、実に3.25倍にもなっています。パーセンテージでみると、日経平均株価は225.62%の上昇。対してこのファンドの純資産総額の増加率は72.12%でしかありません。ちなみに、この間の基準価額は209.46%の上昇でした。

ここで2つの事実が分かります。まず、このファンドの運用成績は、市場平均である日経平均株価に対して劣後していることです。

次に、基準価額が209.46%も上昇しているにも関わらず、なぜ同じ期間中の純資産総額は72.12%しか増えていないのか、ということです。

もう、お気づきの人もいると思いますが、このファンドは解約額が設定額を上回る状態が恒常化していて、資金流出が止まっていないという大きな問題を抱えています。

これは受益権口数を計算すれば簡単に分かります。2011年11月1日時点の受益権口数の概算値は1,981億3,400万口でした。ちなみに受益権口数は、純資産総額を1口あたりの基準価額で割れば、概算値を計算できます。

では、2021年10月1日時点の受益権口数はどうかというと、1,102億400万口です。約10年の間に、このファンドの受益権口数は879億3,000万口も減少したことになります。

資金流出が続いているファンドの末路

これだけ解約が進んでいる投資信託のことを、とてもではありませんが「人気ファンド」とは言えないでしょう。

このように解約額が設定額を上回る状態が続くと、運用そのものがとても苦しくなります。設定額が解約額を上回り、資金がどんどん流入してくる状態であれば、運用成績を改善するために新しい銘柄を組み入れることが出来ますし、仮にマーケットが下落している局面でも、資金さえ入ってくれば、株価が安くなったところを組み入れることが出来ます。

でも、資金流出が続く状態では、株価が安くなった時に思い切って買いに行くのが難しくなります。つまり、運用成績がじり貧になる恐れがあるということです。

資金流出が続いたとしても、株式市場全体が上昇すれば基準価額も値上がりし、結果的に市場平均並みの運用成績は維持できるかも知れません。しかし、それでは何のためのアクティブファンドなのか、意味が分からなくなります。

受益権口数を計算するには、ヤフーファイナンスなどのデータをエクセルにコピーしてペーストし、あとは割り算をしていけば簡単にできます。ある程度、自分で購入したい投資信託が絞られてきたら、この方法で資金流出入を計算してみてください。

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