炭鉱の一生

 児童文学作家の小川未明に「雪くる前の高原の話」という童話がある。山で掘り出された石炭が、トロッコでふもとへ運ばれている。石炭たちは語り合う。〈暗い、寒い穴の中から出されて…どこへ送られるだろう?〉▲トロッコのレールが答える。〈にぎやかな街へゆくのですよ。そして、働くのです〉。戦前に書かれた作品だが、戦後の高度成長期にも、全国の「にぎやかな街」の工場で国内炭がフル稼働し、産業を支えた▲周囲4キロの島に7800人が住んでいたというから、石炭を掘り出す土地もまた「にぎやかな街」だったろう。西彼杵半島沖の池島の炭鉱は半世紀前、最盛期にあった▲やがてエネルギーの主役は石油に置き換わり、海外炭とも価格で勝負にならなかった。九州最後のヤマだった池島炭鉱の閉山から、きのうで20年。その前後に取材で通った島の様子を思い起こす▲「閉山か?」とささやかれてから、わずかの間に現実となり、離職する人々は途方に暮れた。閉山後、ずっと再就職できない人も数多くいた。天を仰ぐため息は、あらがえない時代の波の音にも聞こえた▲童話では、レールが石炭の行く末を語る。〈真っ赤な顔をして働いて…そのうちに、見えなくなり…空へ昇ってゆかれたということです〉。炭鉱という産業の“生涯”にも思える。(徹)

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