【動画】橋物語・樋口橋(佐世保) 希少な二連アーチの石橋

佐々川に架かる吉井町の「樋口橋」

 あまり知られていないが、佐世保市内には48基もの石橋(石造アーチ橋)が確認されており、長崎県内最多を誇る。その一つで佐々川に架かる吉井町の「樋口橋」は、県内では希少な二連アーチの石橋だ。その“姿”は東京の日本橋に似ている。車道としても使われている県内唯一の石橋で、優美さと実用性を兼ね備えている。
 「県内で誇ることができる橋だ」。そう話すのは、全国の石橋愛好家でつくる「日本の石橋を守る会」副会長の末永暢雄さん(74)=同市吉井町=。末永さんによると、県内で二連アーチの石橋は、眼鏡橋(諫早)、稗の尾の眼鏡橋(東彼波佐見)、巌吼寺の石橋(南島原)、眼鏡橋(長崎)、そして樋口橋の5基。このうち、人も車も通行できるのは樋口橋のみだ。
 かつて橋がなかったころ、人々は飛び石を伝って川を渡っていたが、1888年に初代の橋が現在地に土橋で架けられた。だが、次第に橋は朽ちて危険な状態に。市教委文化財課によると、当時の吉井村の村長で村会の議長も兼ねた石田文三郎氏が石造アーチ橋の建造を提案。村を挙げての一大事業として、1922年3月に完成した。
 長さ36メートル、幅6.4メートル。幅は計画より2メートルほど広く造られた。これが今では県道が通ることにつながっている。「明確な理由は分からないが、先見の明があったのは間違いない」と同課。町の中心部にあり、交通の要路として町の発展に貢献してきた。
 だが67年、豪雨の影響で石造りだった欄干が流されてしまった。その代わりに県がガードレールを設置。91年10月に町制施行40周年を記念し、県と町が欄干などを造り直した。
 橋の本体のデザインは日本橋、欄干のデザインは皇居の二重橋に似ている。似せて造ったのかは分からないが、「いいとこ取りだ」と末永さん。81年に吉井町教育委員会が有形文化財に指定し、佐世保市との合併後は市指定有形文化財になった。
 樋口橋の上流域には前岳橋、春明橋という石橋があり、3基とも同じ年に架けられている。来年はそれぞれ架橋100年という節目を迎え、地元では祝賀事業の開催を計画中だ。実行委事務局長の上林宏さん(86)は「石橋文化を大切にし、素晴らしいものが残っていることを後世に伝えたい。100年をみんなでお祝いしたい」と誇らしげだ。

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