幕引き

 「心からお悔やみを申し上げる」と大臣が目を伏せた。「できる限り丁寧に対応してきた」のだという。だが、少しもそんな印象を受けない。高額の損害賠償請求を主張の通りにそのまま認められた原告は、それなのに「ふざけんな」と吐き捨てた▲それがすべてを象徴している。裁判の目的はお金ではなかった。その人はなぜ死を選ばなければならなかったのか-望んだ答えは何一つ示されないままだ▲森友学園の国有地売却を巡る財務省の公文書改ざん問題で、改ざんを強いられたことを苦に自死した近畿財務局職員の妻が国を相手に起こした裁判が、国側の「請求認諾」で唐突に終わった▲国側は認諾の理由で、職員の自死の原因を〈…決裁文書の改ざん指示への対応を含め、さまざまな業務に忙殺され、過剰な負荷が継続した〉などと説明している。「含め」はおかしい。それこそが本質なのだから▲裁判の長期化は適切ではない-と言う。しかし、誰の意向がどう働いて改ざんに至ったのか、その経過が明らかにされるために時間を要したとしても、私たちはそれを〈いたずらに長引く〉とは呼ばない▲「はい、終わり」と声が聞こえる気がする。違う。一方的な幕引きは誰の決断なのか、幕の向こうに隠れたのは誰なのか。まだ、何にも終わっていない。(智)

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