今年はとら年

 「酔っぱらい」のことをこう呼ぶのは「抑えにくいから」という説が有力だ。おっかない動物の代表格として扱われる大型の肉食獣だが、〈大切にして手元を離さないもの〉を言う「虎の子」はこの動物の“育児熱心”な様子から来た言葉とされる▲お手元の年賀状に躍るのは眼光鋭く周囲を圧する姿か、通信教育の教材の人気マスコットか、それとも、ちょっぴり迫力不足の「張り子の虎」か。寅(とら)年の2022年が明けた▲〈初夢や金も拾はず死にもせず〉は夏目漱石の句。正月だから、初夢だからって特別に景気のいい話などあるものか…と言わんばかりの「新年の所感」は短気で負けず嫌いでへそ曲がり-の厄介な性格が知られるこの人らしいが▲各地でじわりと広がる新変異株の感染は、年末年始もお構いなしだ。漱石先生の御説の通り、きょうは昨日の次の日なのだ、の思いを強くする▲〈これさえあれば万事OK〉の「虎の巻」が依然見つからないコロナ対策。マスク必携の2度目のお正月、素顔で思い切り笑い合える日が今はまだ壮大な“初夢”に思われて▲今年こそは〈虎口を脱する〉年に…と願うばかりだが〈虎穴に入らずんば虎子を…〉と無鉄砲に前進して〈虎の尾を踏む〉のでは元も子もない。〈千里を行く〉覚悟で、慎重に気長に進みたい。(智)

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