東急20m車両最後の昭和世代、9000系電車(とその兄弟形式)を知ろう

東急9000系とは

東急9000系は、1986年から使用されている東急電鉄の鉄道車両です。東急では初めて可変電圧可変周波数制御(VVVF)インバータを搭載した車両として知られています。主に大井町線・田園都市線で運用されていますが、かつては東横線、こどもの国線などでも運用されていました。

8500系に次ぐ古参形式

80年代の東急は、次世代の車両開発に向けての試験として、VVVFインバータの搭載実験を初代6000系の一部に搭載して試運転を繰り返し、その際のデータを参考に9000系は製造されました。昭和時代に設計された20m級の車両としては東急最後の系列にあたり、第一編成が落成した1986年から1991年までの昭和と平成の過度期に合計15編成が増備されています。全車両が最初から東横線専用だったわけでは無く、トップナンバー編成(9001F)は東横線と大井町線を度々行き来し、第七編成(9007F)に至っては今現在に至るまで一貫して大井町線で利用されています。また、こどもの国線にも入線したことがあり、その際は9001Fを3両に組みなおしたうえで運用されていました。

9000系の特徴

9000系の特徴と言えば、上述のVVVFインバータもそうですが、東急初の試みとして車端部座席にボックスシートを導入した事も特筆されます。池上・多摩川線に導入された新7000系が登場するまでは東急の車両で唯一のボックスシート車両でした。また、日本で初めての搭載となるLED式車内案内表示器(9001Fの先頭車両のみ)や、東急初の自動放送装置等、意欲的な試みがふんだんに盛り込まれているのも特徴です。

二度も叶わなかった都心直通

9000系は来るべき目黒線と営団地下鉄(現東京メトロ)南北線、及び都営三田線との直通を見越して設計された形式なのですが、直通に伴う目黒線改良工事の設計変更や、9000系自体の出力不足など、色々な要因が重なって、結局地下鉄との直通は新規に設計された3000系が担う事となり、これらの運用に就くことはありませんでした。目黒線に直通する都営やメトロの一部車両の車端部にボックスシートが設置してあったのはこの形式と車内設備を合わせる為の名残です。なお、後に開業した副都心線との直通も計画されましたが此方はブレーキの応答性の問題でやはり対象外となっています。なお「9000系」自体は東横線にもしばしば乗り入れています。(下記画像)

9000系の兄弟形式

昭和から平成までの過度期にかけて、この9000系をベースとした派生形式が製造され、東急各線に配属されています。

1000系

1000系は9000系をベースに製造された18m級の電車です。池上線に残っていた初代7000系と7200系(7700系・7600系は除く)を置き換えるべく製造された3両編成が11本と、日比谷線直通運転開始時から使用されていた初代7000系をやはり置き換えるための8両編成が8本、そしてその運用と後述の目蒲線の運用を兼用できる4両編成が4本製造されています。

ちなみにこの1000系が東急最後の昭和世代18m級電車であり、そのうち第二編成(1002F)は鉄道全体で見ても貴重な昭和64年製の編成となっています。現在は全ての車両が多摩川線・池上線で共通運用されているほか、一部編成は車体更新工事を行い1500番台として運用に就いています。

東急最後の「目蒲線」、「日比谷直通」経験車

今でこそ系統が分かれている多摩川線と目黒線は元々一つの路線で、目蒲線と呼ばれていました。その目蒲線に最後に導入された新形式がこの1000系です。 日比直との予備車兼用という扱いにしたのは本来一列車に着き3両編成だった目蒲線が平成元年から系統分割までの時期に大部分が4両編成に設定されたため池上線との予備車の共通化が出来なくなった事によるものです。系統分割後はこの状態は解消され、3両編成に改組されて多摩川線・池上線の運用に就いています。

一方日比谷直通専用編成は東横線が副都心線に直通先を変更することに伴って直通運用もろとも東横線を離れることになり、先のグループと同じく3両編成に改組された上、新7000系にテーマを合わせた車体更新を行って1000系1500番台となって編入され現在に至ります。なおこれらの改組によって発生した余剰者の一部は、先代7000系の後を追うかのように改造を施したうえで地方の各私鉄に譲渡されて行きました。

2000系

2000系は9000系をベースとして製造された20m級の電車です。わずか3編成しか製造されていない形式で、東急どころか他の私鉄でもその少なさはあまり類を見ません。このうち、第一、第二編成は田園都市線生え抜きですが、第三編成(2003F)は一時期東横線で運用していた時期がありました。編成数が東急の車両の中では極端に少ないことや、クロスシートの有無や機器・内装以外は全て9000系と共通設計だったため少数ながら東急の中でも特に目立たない形式でした。

後に9000系に編入され、9020系に

2003Fの田園都市線転属からは特にこれといった話題もなくそのまま田園都市線や半蔵門線(東武線には直通せず)で運用されていましたが、2018年末にリニューアル工事を終えた上で2003Fが5両編成に改組されて大井町線に転属されました。しかし翌年の3月に僅か4か月足らずで3編成とも9000系に編入され、9020系として改めて大井町線に配属され、現在に至ります。これにより、2000系は形式消滅し、大井町線の車両は9000系で統一されました。内装の色調が既存の9000系とは明らかに違っているので乗ればすぐに分かります。(下記画像)

ついに来た置換の話

今年(2022)の初めに、東急は1月7日に発表したプレスリリース(リンク)にて、2022年度に完了する田園都市線2020系増備に続いて、大井町線にも新型車両を導入すると発表しました。置換対象は明示してはいませんが、まさかつい最近増車したばかりの6000系を置き換えるとは考えにくく、9000系・9020系が対象であることはほぼ確定です。思えば9000系ももうそろそろ車齢が40近くにもなっていますので置換は仕方ないですが、子供のころから親しんでいた筆者にとってはなじみの顔がいなくなるというのは少し寂しいものです。もしや伊豆急に転属するのではないかという噂も流れ始めていますが真相は分かりません。個人的には譲渡されて下記の画像のように伊豆急色をまとうのももありかなと思っていますが。(了)

【著者】ミシンロボ

日本全国の鉄道を「日帰り」で旅するライター。 日本全国の鉄道路線を完乗済みです。色々な鉄道の情報を独自の視点から発信します。

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