手取り月23万円の49歳派遣社員「退職金もなく将来が心配」老後資金の鍵は家賃と副業?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、49歳の派遣社員の独身女性。WEB制作の仕事をしていますが、派遣社員のため退職金もなく将来が心配だと言います。月の手取り収入23万円の中から8万円も投資に回すやりくり上手の相談者。これからの老後資金作りの鍵は? FPの氏家祥美氏がお答えします。


派遣社員なのでボーナスも退職金もなく将来の収入が心配です。

WEB制作の仕事を長くしていてスキルアップに励んでいますが、厳しい環境です。老後の資金が不安です。投資はプランナーと相談し、6年前からNISAと変額保険に入っています。毎月13万5,000円トータルで入れており、うち毎月の給与からは8万程度入れて、残りは貯金から入れていますので、ほとんど貯金には回していません。

今からどんな対策を考えていけばよいでしょうか。

【相談者プロフィール】

・性別:女性、49歳、独身

・住居の形態:賃貸(東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:23万円

・ボーナスの有無:なし

・毎月の世帯の支出の目安:15万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:7万7,000円

・食費:1万5,000円

・水道光熱費:1万円

・保険料:2,000円

・通信費:7,000円

・お小遣い:1万円

・その他:医療費2,000円、習い事と学習費8,000円、雑費5,000円、交通費2,000円、住民税1万1,000円(月平均した割合)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:1万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):480万円

・現在の投資総額:1,280万円

・現在の負債総額:なし

氏家:今回のご相談者さんは、WEBデザイナーとして派遣で働いている49歳の女性です。派遣社員のため、ボーナスがなく、仕事や収入の保障もないということで、将来に不安を抱えています。老後に向けてどのように考えていったらいいのでしょうか。家計の内訳、公的年金の確認、副業の可能性の3点を柱に、順番に考えていきましょう。

やりくり上手は老後上手

老後の生活を考えるにあたって、毎月の生活費を年金でどの程度賄えるのか、というところから考えていきましょう。毎月の生活費が年金でカバーできるようであれば、老後資金は病気や介護など「リスクへの備え」と、旅行や大きな買い物など「楽しみのお金」のために準備をしていくことになります。また、年金だけでは生活費が足りないようであれば、「生活費の不足額」もあらかじめ老後資金としてためておく必要があることになります。

家計の内訳を拝見すると、ご相談者さんがとてもやりくり上手なことに気が付きます。手取り月収が23万円のところ、毎月の支出は15万円に抑えて、残りの8万円を毎月NISAや変額保険などに回しています。さらに支出15万円の使い道も、家賃に7万7,000円、住民税に1万1,000円を払っているため、残り6万2,000円の中で食費も水道光熱費も通信費もお小遣い、雑費などすべての支出を賄っています。働きながらこれだけ節約できているのは立派です。

やりくり上手な人は、老後になっても生活費をコンパクトに抑えられる傾向があります。健康を維持できてさえいれば、大きく生活費が増えることはないでしょう。

老後に住み替えをすると家計に余裕が生まれる

ご相談者さんの家計で気になる支出は、毎月の支出の半分以上を占める家賃です。現在の場所で仕事を続ける上では7万7,000円の家賃は必要な支出だと思いますが、いずれ仕事をリタイアした後には、もっと家賃の低い場所への引っ越しも検討してみるといいでしょう。実家に戻れるならばそれも選択肢に入りますし、実家が難しければ東京以外に住みたい場所を探すことも併せて検討してみましょう。節約だけに頼らない豊かな老後の可能性が広がります。

一つの目安となるのが、「生活費6万2,000円+家賃<年金等収入」の計算式です。この計算式から家賃の基準額を判断するためにも、続いて年金額の調べ方についてお話をします。

ねんきんネットで年金額を試算してみよう

公的年金を調べたことはありますか? 年金を調べる方法には、毎年誕生日月に届く「ねんきん定期便」と、WEBでいつでも年金記録にアクセスできる「ねんきんネット」があります。

郵送で届くねんきん定期便は、50歳未満と50歳以上で書かれている内容が異なります。50歳以上の人の場合、いまの働き方・年収が60歳まで続いた場合の将来の年金見込み額が書かれているのに対して、50歳未満の人には将来の見込み額がズバリ書かれているわけではありません。そこで、現在49歳のご相談者さんにはねんきんネットで将来の年金受取額を試算することをお勧めします。

ねんきんネットを使うと、自分の年金加入記録にアクセスできるほか、将来の働き方や収入などを入力して年金受取額を試算することができます。現在の収入のまま60歳まで働き続けた場合、65歳まで働き続けた場合、途中で収入が減った場合など、複数の状況を設定して将来の年金額を比較してみましょう。具体的に数字で年金額を見ることで、より現実的に生活設計ができるようになります。

「マイナポータル」からも年金記録を見ることができる

「ねんきんネット」にアクセスする際には、お手元にねんきん定期便や年金手帳を用意しておきましょう。ねんきん定期便に書かれたアクセスキーや、年金手帳に書かれた基礎年金番号が、個人の年金記録にアクセスする際に必要になります。また、マイナンバーカードを活用するためのWEBサイト「マイナポータル」からも年金記録を見ることができます。マイナポータルを利用する場合には、マイナンバーカードと暗証番号を用意します。

なお、ねんきん定期便やねんきんネットで試算できる年金額は額面金額です。そこから税金や社会保険料を支払うことになるので、手取りはもっと少ないと思っておきましょう。

副業からフリーランスとして働く準備もしておきたい

1か月あたりの生活費と年金額を調べてきたことで、老後の収支が大まかに見えてきたと思います。年金の受給が始まる65歳まで仕事を続けて収入を得られると、無収入期間をなくすことができ、老後資金の取り崩しを緩やかにできるでしょう。

ご相談者さんは、WEBデザイナーとしてのスキルをお持ちです。現在は、派遣社員として働いていますが、そのスキルを活かして副業をするという選択肢を考えたことはありますか? 今すぐに副業が可能かどうかは、派遣会社や派遣先の企業との契約状態を確認する必要がありますが、そのあたりの支障がなければ、「クラウドワークス」「ランサーズ」「ココナラ」などのスキルシェアサイトに登録をして、副業を始めてみるという手があります。

また、いまは派遣のお仕事もあって忙しくて副業まで手が回らないということでも、将来的に自分でフリーランスとして仕事を獲得するという手段を用意しておくことで、将来の不安はずいぶん解消できるのではないでしょうか。

金融資産は60歳時点で2800万円以上

続いて、金融資産にも触れておきましょう。ご相談者さんには、現在、投資1,280万円+貯蓄480万円=1,760万円の金融資産があります。このまま60歳までは現在のペースで働き続けて、毎月8万円の積立を継続できたとすると、これから元金だけで8万円×12か月×11年間=1,056万円が上乗せできることになります。60歳時点の金融資産は、運用益を考慮せず2,816万円になりますね。

60歳までは現在の手取り月収23万円を目標に働いて月に8万円を積み立て、その後60歳から65歳までは貯蓄分を減額した手取り15万円を得られるように働くと、65歳時点では、2,816万円+αの預貯金を持ちながら、年金生活に入れるようになります。

年金の繰り下げ受給をすれば増えた年金を一生もらえる

このまま65歳から年金を受け取ってもいいのですが、年金は受け取り開始時期を遅くする「繰り下げ受給」をすると毎月の年金額を増やすことができます。例えば、5年間受け取り開始を遅くして70歳からの受け取り開始とすると、年金額が42%増額となります。2022年4月からは制度改正により、75歳まで年金受給開始を繰り下げることで、年金額を84%増やすことができるようになります。繰り下げ受給で増えた年金は、生きている限り一生もらうことができるので、長生きに備えやすくなります。

© 株式会社マネーフォワード