「養育費をもらえない」が7割、不払いに泣き寝入りするケースも ひとり親家庭の現実

養育費は、子どもの権利です。離婚により親権がなくなったとしても、親は子どもを養育する義務があり、養育費を支払わなければなりません。ところが、ひとり親家庭のおよそ7割が養育費を受け取れていないといいます。

ひとり親家庭に食料を無料で配付する「グッドごはん」を運営するNPO法人グッドネーバーズ・ジャパンが、ひとり親家庭の養育費の実態についてアンケート調査を実施しました。調査結果から、ひとり親家庭の多くが養育費をきちんと受け取ることができず、またその状況を変えるのが難しいという現実が浮き彫りになりました。


7割超が「養育費をもらえない」

養育費とは、子どもが経済的・社会的に自立するまでに要する費用のことで、主に衣食住に必要な経費、教育費、医療費などがこれに当たるといいます。

グッドネーバーズ・ジャパンが「グッドごはん」を利用するひとり親家庭を対象に養育費の受け取り状況についてアンケート調査を実施したところ、養育費を「毎月もらっている」と回答した人は、東京で19%、大阪で13%にとどまりました。

「毎月もらっているが減額されることがある」「今までに何度かもらえない月があった」「2、3ヵ月に一度しかもらえない」といった、もらえているものの支払いが断続的だったり、減額されたりすると回答した人は東京・大阪ともに13%。「一回ももらっていない」「(数回もらったことはあるが)現在はもらえていない」と回答した人は、東京・大阪とも7割以上にも上り、養育費の不払いが深刻な状況にあることがわかります。

養育費「子ども1人につき2〜3万円」が最多

養育費を受け取るには、離婚時などに相手としっかり話し合わなければなりません。法的拘束力を持たせるためには、公正証書の作成や家庭裁判所の決定が必要です。

では実際に、養育費の取り決めをしている人はどれくらいいるのでしょうか。

調査結果によると、「養育費の取り決めをした」と回答した人はおよそ4割。そのうち公正証書や家庭裁判所を介して取り決めた人は、東京で17%、大阪で12%にとどまっています。逆に「養育費の取り決めはしていない」と回答した人は4割に上ることがわかりました。

また「養育費の取り決めをした」と回答した人に取り決め額を聞き、子どもひとりあたりの金額に換算したところ「2〜3万円」が最多となりました。

そもそも養育費は、夫婦それぞれの収入を踏まえて金額が決まります。家庭裁判所で養育費を算定する際に活用されている標準算定表(令和元年版)によると、非監護親の年収が500万円で、監護親の年収が200万円台の場合、14歳以下の子ども1人あたりの養育費の目安は月4〜6万円としています。

「今回の調査では、非監護親の年収までは聞いていませんが、第三者を介さず本人同士の口約束などで済ましている場合は、養育費が相場よりも低額になっている可能性が考えられます」と、同団体の広報・飯島さんは指摘します。養育費に適正額があること、不払いに備えて強制執行できるように手続きをすることなど、養育費について正しい知識が得られる環境も必要とされています。

守られない約束

とはいえ、話し合いの上で養育費の金額を決めても、必ずしもその通りに受け取れるわけではないようです。「養育費を減額されたことがある」「もらえなかったことがある」と回答した人にその理由について聞いたところ、以下のような声が寄せられました。

「コロナ禍の影響で相手の収入が減少したから」
「念書に『増減可能』と記載されているため」
「毎月何度も連絡して、なるべく払ってもらえるように頼んでいるが、お金がないと言い、減額されたり、支払ってくれないことも多い」
「相手が自営業のため仕事の状況や、再婚後子どもが生まれるなどの理由で支払いが滞り、連絡は取れるが話し合いにはあまり応じてくれない」

約束したのに支払われない――この状況を改善するためにできることはあるのでしょうか。養育費を支払ってもらえるよう働きかけたことがあるのか聞いたところ、「働きかけたことがある」と回答した人は3割程度でした。

「働きかけたことがない」と回答した人にその理由について聞くと、「離婚に応じてもらうだけで精一杯だったため」「精神的ストレスになるため」「連絡先がわからない」「いま住んでいる自宅を知られたくない」といった声があがりました。

一方、働きかけたにもかかわらず、「裁判所に勧告してもらったが、支払いがあったのは数回だけで、その後支払われなくなった」「何度も電話で話したが一度も振り込まれなかった」「一度、親戚から電話をしてもらったが無視された。弁護士費用は高額になるため難しい」といった理由から、泣き寝入りするケースも多くあることがわかりました。

養育費は「子どもの権利」

厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯の平均年間収入は 243万円。「住居費や食費などを考えると、生活を維持するだけで精一杯で、子どもに習い事をさせたり、進学費用を貯めたり、夏休みに出かけたり、そういった普通のことをする余裕はありません」と飯島さん。養育費の不払いは、子どもの経験や将来の選択肢を奪うことにつながるといいます。

「養育費は、シングルマザーを例にとると、元妻が『取る』、元夫は『取られる』と言われることがあります。しかし、養育費の支払いは親の義務であり、養育費は監護している親のものではなく子ども本人のもので、子どもの権利です」

養育費の不払いを防ぐために、公正証書の作成費用を補助する自治体も増えてきています。当事者が親として誠意のある対応をしなければならないのはもちろんですが、行政や公的機関などの介入がなければ当事者同士だけの問題として放置されてしまうのも事実です。養育費の不払いが少しでも減るよう、今後対策が必要ではないでしょうか。

<調査概要>
・実施日:2021年6月
・対象者:「グッドごはん」に食品を申し込んだ関東1都3県および大阪の利用者(主に30〜50代)
*なお、東京は主に大田区、品川区、その他神奈川・埼玉・千葉/大阪は大阪府を指す。
・有効回答数:1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)494名/大阪府388名の計882名

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