23年ぶりの春 長崎日大センバツ出場<下> 『前進』 「まだ勝ててはいない」 真価問われる大舞台へ

「チーム力が武器」と誰もが口にする今季の長崎日大。主将の河村(右)を中心に真価が問われる甲子園へ挑む=諫早市、長崎日大学園野球場

 昨年11月9日。長崎日大は九州大会準々決勝で快勝し、九州4枠の選抜出場権を手繰り寄せた。その夜、監督の平山清一郎と部長の山内徹也の表情はまったく緩んでいなかった。「次をどう戦えるのか、それしか考えられない」
 迎えた準決勝。完敗した。際どいボール球に手を出さない各打者の選球眼、雨でも堅実な守備、圧倒的パワー…。優勝した九州国際大付(福岡)に力の差を見せつけられた上、踏ん張りたいところでミスが続いた。2-12の七回コールド負け。試合後、平山はスマートフォンの写真にスコアボードを収めた。

  ■問い掛けた覚悟
 「この悔しさを忘れないように」。12月末、新年を前に平山はその写真を投手陣とつくるLINE(ライン)グループに送った。ほかにも、投球練習の映像や読んでほしい記事など、日ごろから必要と感じるものは選手と共有する。距離が近すぎるわけではない。礼儀をはじめ、グラウンドは常に緊張感が漂う。「時代に応じて使える手段は使う」という考え方だ。
 ただ、使い方をたしなめたこともある。九州大会中、宿舎で部屋をのぞくと、いつもスマートフォンを触っている選手たち。質のいい睡眠についても十分に学んでいるのに、なぜなのか。大会後にルールを見直すと、破る者が出た。平山は覚悟を問うた。「今年は特にチーム力が売りだろう。それが崩れるぞ。チームの危機やぞ」

  ■勝ちきる準備を
 言葉で説明できない「計り知れない力」(平山)が予想外の結果を生むこともある高校スポーツ。勝負の8割を握るとも言われる投手をはじめ、野球の技術が前提だとはいえ、そのための準備となる生活面や精神面、人間力で負けるなと言い続けている。妥協せず実践できるかどうかが、この冬の成長のポイントの一つになる。
 1月5日、新年の初練習。主将の河村恵太は前を見据えていた。「あいさつ、ごみ拾いなど、野球以外もコツコツと積み上げて差をつける。試合では見えない力が働く。ぶれずに勝ちきる力をつける」。右のエース種村隼も「投手が投げないと野球は始まらない。一球一球の気合、気持ちを意識して、冬場も他のチームよりも投げ込めていると思う」と力強かった。
 河村はこうも言った。「九州でベスト4になったけど、大事なところでコールド負け。県も2位だったし、自分たちは、まだ勝てていない」。実際に過去5年間、チームは県内の主要大会で優勝がない。今季も、昨秋の県王者で九州8強の海星など、強力なライバルが複数いて、絶対的な力があるとは言い難い。

  ■大きなチャンス
 今年で94回を数える選抜で、県勢はこれまで2年連続出場がやっとだった。だが、2020年創成館、21年大崎に続き、初めて3年連続で切符を獲得。この10年間では7度目となる。甲子園で一度(09年春の清峰)しか日本一の経験がない県全体で競い合い、レベルが上がりつつある証しでもある。
 だから、代表校として戦う役割も大きい。一つでも勝って全国に「長崎やるな」、県内のライバルに「負けられない」と感じてもらわなければいけない。おそらく今回は九州4枠目のぎりぎりで手にした甲子園。失うものはない。選手たちも理解している。この舞台は成長できるチャンスでしかないということを。
 例年以上に接戦が予想される本番の夏の県代表権に向けても真価が問われる春。強豪復活へ、力強く前進してみせる。
(敬称略)


© 株式会社長崎新聞社