石原慎太郎さん死去

 人にどう思われているか気にしすぎるのを「自意識過剰」というが、逆は何だろう。評論家の江藤淳は、人にどう言われようと構わないその人を「無意識過剰」と呼んだという▲「歯に衣(きぬ)着せぬ物言い」といえば、真っ先にその人が思い浮かぶ人もいるだろう。作家であり、東京都知事などを務めた石原慎太郎さんが89歳で亡くなった▲粉じんの入ったボトルを手に「これを総理大臣も生まれたばかりの赤ん坊も吸ってるんだよ!」。そう叫んで、ディーゼル車の排ガス規制を訴えた。東京五輪・パラリンピック誘致の旗を振った。未来を見つめる目が澄み渡る、まれな人だろう▲意のままの「無意識過剰」は独断を招き、時に先を見る目を曇らせた。石原さんの肝いりで、都が1千億円を出資し、開業した新銀行東京は、野放図な融資によりやがて行き詰まった▲文壇に新風を吹かせた時代は存じ上げないが、1950年代の若者を描いた「太陽の季節」を読むと、主人公は身勝手なほど奔放で、石原さんと二重写しになる▲発言はしばしば暴走し反発を浴びたが、一方で都知事を13年半務め、強い個性で人を引きつけた。政界引退の時に「やりたいことをやって人から憎まれて死にたい」と言い、のちに「愛されて死にたい」とも語っている。どちらもきっと本心だろう。(徹)

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