「硬式は肩身が狭い」 五輪でグラウンド消滅、松坂大輔を生んだ江戸川南シニアの今

江戸川南シニア・有安信吾総監督【写真:羽鳥慶太】

部員が12人まで減少、東京五輪で専用グラウンド失ったのが痛手に

東京都の東部で活動する江戸川南リトルシニアの有安信吾・総監督は、80歳の今もグラウンドに立ち、子どもたちを指導する。松坂大輔投手ら、プロ野球の世界でも一流となった選手を育て、少年野球の世界をずっと見守って来た生き証人だ。「First-Pitch」では有安総監督による連載をお届けする。第1回は、100人を超える部員を抱えていた名門チームの“現在”だ。東京五輪の「負の影響」もあり部員は激減。そんな中で総監督の指導法も変化してきているという。

◇◇◇◇◇◇◇

江戸川南はリトル(小学生)のチームが2008年、10年と2回、リトルリーグ・ワールドシリーズに出させてもらって、10年には世界一になったんですけども、あの頃がチームとしての最盛期だったんじゃないですかね。1984年に江戸川リトルから分かれてチームを発足させて以来、ずっと部員数は右肩上がり。江戸川区だけじゃなくて城東地区一帯の野球をやりたい子が集まってきましたから。多いときは部員がリトルとシニア合わせて100名超えて、とても見切れないと入部をお断りしていたくらいで。それが今の部員数は中学生のシニアだけで(リトルは休部中)12人ですからね。

少子化っていうこともあって、どこのチームも部員集めに苦労しているみたいですけど、ウチの場合、部員が減った一番の原因は専用の練習グラウンドがなくなっちゃったことでしょうね。以前は葛西臨海公園に専用のグラウンドがあったんですけど、そこが東京オリンピックのカヌー・スラロームの競技会場になるっていうんで使えなくなちゃった。それで荒川の河川敷にあるグラウンドで練習させてもらってるんです。ただ公共の施設ですから、いろいろと練習内容にも制約が出てきちゃうんですね。

10数年くらい前に、よそのチームで少年硬式野球のファウルボールが隣のサッカー場に飛び込んで大けがさせちゃったっていう事故があったんです。それ以来、硬式野球っていうのはとっても肩身が狭い。今、借りてるグラウンドはフリーバッティングはできないんです。もちろん試合をするのもダメ。

ティーバッティングだとか、バント練習は硬式球でできるんですが、フリーバッティングは軟式ボールとか、硬式テニスボールでやらざるを得ない。子ども達にとればバッティングは一番の楽しみでしょう。それが目一杯できないんだったら、もっと練習環境の良いチームに行こうってことになっちゃうのは仕方ない。そんなこんなで瞬く間に部員が減ってきちゃいましたよ。

時代が変化「昔は練習が厳しいからウチに来た子もいたくらいですが…」

あと今はインターネット社会でしょう。そういう時代の流れに乗り遅れちゃったっていうのはあるんでしょうかね。

少年野球のチームがホームページでチーム紹介したり、部員募集したりするのは当たり前のことのようですが、ウチはずっとやってなかったんです。以前からあんまり「おいで、おいで」と勧誘はしてなかったものですから。だって一緒にやろうと誘っておいて、ウチの指導法や練習法と合わなかったら責任取れないでしょう。だから「ウチでやりたい」という子を受け入れていたんです。

はっきり言いますけど、かつてのウチの練習は厳しかったですよ。甲子園に行きたい、プロ野球選手になりたいって子が集まってきましたからね。入部前に「ウチの練習はキツいけどいいかい?」って聞くと、上手くなりたいからその方がいいって子ばかりでした。みんな高い志を持っていて、なにしろ自分から希望して入ってきたチームですから、途中で音を上げる子もほとんどいなかったですよ。

そんなやり方でずっとやってきたんですけども、数年くらい前ですかね。インターネットで「江戸川南の練習は厳しい」と書かれて、広まっちゃった。昔は練習が厳しいからウチに来たって子もいたくらいなんですけど、今は練習が厳しいなら、あそこはやめておこうと避けられちゃうんですね。

子どもと水平の関係で接する「おじいちゃんが孫と遊んでいるようなもの」

今の子たちは、皆が皆、甲子園に行きたい、プロになりたいってこともないんですよ。子ども達が野球に求めるものが変わってくれば、当然、指導法も変えていかなきゃいけない。

今は子ども達の自主性に任せる指導をしています。自主性っていっても、ほったらかしにして好きなようにやらせてるわけじゃないですよ。子ども達は皆、野球がやりたくて入部してきたのに、いつの間にかやらされているようになっちゃうでしょう。その部分をなくしていく。そういう意味での自主性です。やらされていると思えば、練習をキツいと感じたり、不満に思ったりするでしょうからね。

子ども達とは監督、選手という上下の関係じゃなくてね、水平の関係で接するように心がけています。もちろんメリハリは必要ですから、厳しくいくときはガツンといきますよ。冬の練習では相撲を取ったりするんですけど、本気で投げ飛ばしてやりますからね。おじいちゃんが孫と遊んでいるようなものですよ。(笑)

○有安信吾(ありやす・しんご) 1941年、東京都葛飾区出身。江戸川リトルシニアでコーチとして少年野球指導を始め、1984年に江戸川南リトルシニアを創設し総監督に就任。全日本選手権大会優勝3回、全国選抜大会優勝4回、リトルリーグ・ワールドシリーズに2回出場し、2010年には世界一となった。教え子に松坂大輔、小谷野栄一など多数のプロ野球選手がいる。(石川哲也 / Tetsuya Ishikawa)

兄は巨人の現役バリバリ左腕 元プロの監督も「襟を正される」と絶賛の中学生捕手

「来季に弾み」となる年が予期せぬ戦力外に 元巨人“由伸2世”の第2の人生と感謝

元中日右腕の「息子さんがそっくりすぎて…」 ドラゴンズJr.の“背番号14”に注目

© 株式会社Creative2