<県政の現場から 2022知事選> 教員不足 「過酷」払拭できるか 労働環境改善が急務 若者流出防ぐ鍵にも

仕事にやりがいを感じつつ、プライベートと両立させるのが難しいと悩む教員は少なくない(写真はイメージ)

 家族で過ごしていた休日の夜、長崎県内公立中に勤務する30代男性教員のスマートフォンが鳴った。同じ部活の生徒同士でもめ事が起き、保護者から「どうにかしてほしい」という相談。すぐに双方に電話をかけ、なんとか穏便に済ませた。こんなことは「日常茶飯事」だ。
 子どもの成長に触れる教員の仕事にやりがいを感じている。ただ、教員だって家庭もあればプライベートな時間も欲しい。「ノー残業デー」が導入されたが、学校への苦情対応まで求められ、「そもそも人手が足りていない」。働き方が改善されなければ「『魅力』より『過酷』が上回り、先生のなり手がいなくなってしまわないか」。そんな危機感を抱いている。
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 全国で教員が足りない。文部科学省の2021年4月時点の調査では、本県の公立は小学校の15.1%、中学校の24.4%、高校の12.3%の学校で不足が生じていた。県教委によると特に、少人数指導など現場の実情に合わせて追加配置する臨時的任用教員の確保が難しい。
 今後数年は大量退職が続くため、採用は増える半面、志願者の大幅増は見込めない状況。5年前と22年度の競争倍率を比べると、小学校が2.8倍から1.4倍に、中学校が8.9倍から3.0倍に、高校が7.2倍から4.6倍にそれぞれ低下している。
 県教委は、教員の質を担保する上で「一定の競争は必要」とする。志願者数を増やそうと、県外からUIターンする教員や大学推薦者を対象に、1次試験を免除する措置を導入(一部除く)。22年度は出願年齢の上限を59歳に引き上げ、門戸を広げるなど、あの手この手で人材確保に奔走している。
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 「福利厚生はどうなってますか?」。教員を目指す最近の学生からはそんな質問が増えているという。学校現場では「過酷」というイメージを払拭(ふっしょく)するため、働き方改革も急務だ。
 ある教員は「現場は教員の善意で成り立っている部分が多い」と指摘。部活動や生徒指導に追われ、翌日の授業準備が夜になることも少なくない。過労死ラインの目安「月80時間」以上残業した県内小中学校教職員の割合は17年度が7.3%。減ってはいるものの、23年度目標のゼロには至っていない。
 県教委幹部は「部活動を生きがいにしている先生も多く、簡単には解決できない問題。だが労働環境を整える責任もある」と頭を悩ませる。
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 地元企業情報の発信強化など行政・学校・企業の連携もあって、21年春に卒業した高校生の県内就職率は69.9%と過去最高を更新した。一方で若者の県外流出は続いている。県によると、20年の県外転出超過数(日本人のみ)は約5500人、その約8割を15~24歳が占める。進学や就職で県外に出た若者にUターンを促すには、企業誘致などによる受け皿整備が欠かせないが、最大の鍵は「郷土愛を育む」。同幹部はそう力を込め、続ける。
 「人口減少に歯止めをかける根幹には教育の力が必要。だからこそ、人を育てる先生の役割は大きい。(教員確保のため)働く環境を改善しつつ、高校生や大学生に仕事の魅力を地道に伝えていくしかない」
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 知事選では教育を巡り、現職の中村法道候補(71)は「地域や産業を支える人材づくり」、新人の大石賢吾候補(39)は「グローバル教育の実施」、新人の宮沢由彦候補(54)は「食を通じた情操教育の推進」などを主張。その担い手をどう確保するかも問われている。


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