アサリ産地偽装 取り扱い中止や表示変更 長崎県内のスーパー対応追われる

「熊本産」から「中国産」への表示変更とおわびを記した掲示=長崎市、S東美浜町店

 「産地の確認は難しい」「何を信用したらいいのか」-。輸入アサリを熊本産と偽る産地偽装疑惑を受け、長崎県内のスーパーや鮮魚店の店頭から「熊本産」の表示のアサリが姿を消した。各店とも取り扱い中止や「中国産」への表示変更などの対応に追われている。「食の安全」が揺らぐ事態が繰り返され、事業者や消費者から落胆の声が上がっている。
 「現在、流通している熊本産、有明海産のアサリは産地が不透明なため、販売を中止します」。県内でスーパー19店舗を展開する丸髙商事(諫早市)は、「熊本産」を店頭からすべて撤去、販売中止の貼り紙を掲示した。年間を通じて販売してきた人気商品だが、同社は「産地がはっきりした商品が入ってくるまで取りやめる」と話す。
 生活協同組合ララコープ(西彼長与町)も、カタログによる宅配と共同購入、県内9店舗での販売を当面中止した。広報担当は「実態調査の推移を慎重に見極めたい」と述べた。
 長崎市浜町のS東美浜町店の鮮魚売り場。今週初め「熊本産」と記したちらしを配布したため、「中国産」のラベルに急きょ変更して店頭に並べた。担当者は「ちらし印刷の締め切りが早いので、売り場におわびの文書を掲示した。今後は中国産を販売するが、報道後、売れ行きは良くない」と明かす。
 「小長井育ち」と記したアサリを店頭に並べる鮮魚店は「以前から(諫早市)小長井町で育てた中国産を売っている」と説明。県によると、2020年の生産量は103トン。中国産の稚貝を小長井町などの諫早湾で育て、「中国産」と表示して出荷。国の食品表示基準に沿った対応という。
 卸売りの長崎魚市(京泊3丁目)は、これまで「熊本産」を1日400~500キロ仕入れていた。中国産を熊本県で8カ月から1年間、育てたアサリだ。現在、「中国産」と表示して卸しているが、仕入れ量は例年の8~9割減。注文を基に仕入れるため、卸売価格は1キロ600円程度で変わらない。今後、福岡産や三重産、北海道産の取り扱いを検討する方向。
 「新型コロナウイルス禍で売り上げが減っている中で大きな打撃。これまでルールがあいまいだったので明確に決めれば、堂々と『熊本産』で販売できるようになる」。担当者は、明確な取り扱い基準を求める。
 市内のスーパーで買い物していた主婦(61)は「もう何が安全か分からない。アサリに限らず、国産を意識して買う」と困惑した表情。複数の市場関係者は「『熊本産』というメーカーを信頼してきたが、(産地の)確認方法はないのが現実」「中国産が出回ると、消費者が敬遠し、価格が下落する恐れもある。今後どう転ぶか分からない」と問題の根深さを指摘する。


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