長さ1キロ超!地下鉄で世界最長のプラットホームが長いワケ 米シカゴを走る鉄道L「鉄道なにコレ!?」(第28回)

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

旧ワシントン駅の“遺構”となったプラットホーム(写真は一部を除き2021年7月30日、米イリノイ州シカゴで筆者が撮影)

 米国中西部イリノイ州シカゴを走るシカゴ交通局(CTA)の鉄道「L」には、地下鉄として世界最長の1キロ超(1067メートル)のプラットホームがある。鉄道情報サイトによると、西半球にある鉄道のホームでも最長で、世界全体ではインドの上位3駅に次いで4位の長さだ。走らせているステンレス製電車は全長約14・6メートルなので70両連結しても余るほどの長さだが、そんなに長い車両数で運行するはずはない。なぜこれほど長いホームなのか、首をかしげながら現地に赴くと意外な理由が見えてきた。(共同通信=大塚圭一郎)

 【プラットホーム】鉄道の駅で、旅客列車ならば利用者が乗り降りするのに使う構造物。列車の乗降口に高さを合わせるために高くなっている場合が多い。鉄道で世界一長いプラットホームとしてギネス世界記録に認定されているのはインド北部のウッタル・プラデシュ州のカラグプール駅で、1355メートル(傾斜路を含めると1366メートル)。

 日本で最長のホームはJR西日本の京都駅にあり、558メートル。これは金沢駅などへ向かう特急「サンダーバード」などが発着する「0番ホーム」と、関西空港と結ぶ特急「はるか」などが発着する「30番ホーム」の事実上二つのホームがつながっているため長く、ホームの両端を歩くには5分以上を要する。これはJR在来線の標準的な車両(全長20メートル)でほぼ28両に相当する。

 ▽第2次大戦中に完成

 「L」の高架鉄道のマーチャンダイズマート駅からブラウン系統の電車で環状線内へ折り返し、名物のダイヤモンドクロッシングを通って2駅先にある環状線のステート通り・レイク通りで降りた。(「鉄道なにコレ!?」第27回ご参照 https://nordot.app/848383851871633408?c=39546741839462401

「CHICAGO」と縦書きした看板を掲げたシカゴ劇場

 高架駅から地上のステート通りに降り立つと、「CHICAGO」と縦書きしたシカゴ劇場の名物看板が目に入った。ステート通りを劇場へと歩くと、ちょうど劇場入り口の前に「SUBWAY RED LINE」と記したゲートがあった。

 これがミシガン湖の西岸を南北約38キロにわたって走るレッドラインの一部となっているステート通り地下鉄のレイク駅の降り口だ。地下鉄はその名の通りステート通りの地下を走っており、長さは7・9キロ。第2次世界大戦中の1943年10月に開業した。

 38年12月に建設が始まり、戦時中も進めて5年足らずで完成させたのは「地下鉄建設が重要な事業と位置付けられていたため」(シカゴの歴史を紹介したウェブサイト)という。

シカゴ劇場前にあるレイク駅の入り口のゲート

 当時のシカゴは人口が増加し、発展する中で道路渋滞が激しくなっていた。シカゴ地区には米軍が使う戦闘機用エンジンや魚雷、パラシュートなどを製造する工場があったが、道路渋滞は工場に通う労働者の通勤にも支障を来していた。戦争に使う物資を供給するためにも労働者らの足を確保することが急務となっていたため、ステート通り地下鉄は戦時中でも建設が中断することなく進められた。

 レッドラインは「L」の環状線には乗り入れていないが、途中のレイク駅とジャクソン駅で環状線と乗り換えられるようになっている。

 ▽不思議な光景

 開業当時の駅はエスカレーターを設け、蛍光灯が構内を明るく照らし、当時としては想像を絶するようなハイカラな雰囲気だったという。公衆電話を設置したコーナーには電話同士の間に仕切りを設け、隣の人に会話を聞かれにくい工夫も施していた。

 それから78年ほど経過した現在のレイク駅構内は、スマートフォンが普及している中で公衆電話は見当たらなかった。「L」の環状線に乗る際に買った5ドル(約570円)の1日乗車券で改札を抜けて階段を下りると、両方向の線路に挟まれた島式ホームに着いた。ドーム状になった天井をタイルで装飾しており、華やかだった開業当時をしのばせる。

レイク駅のプラットホームに入線するレッドラインの電車

 ただ、壁面はあちこちにひび割れが入り、汚れも目立つなど駅が“傘寿”を迎えようとしていることは隠せない様子だ。レッドラインは24時間運行しているが、沿線のシカゴ中心部や周辺地域には治安の悪い地域があるだけに「乗る際は気を付けたほうが良く、できれば深夜時間帯に乗るのは避けたほうがいい」(シカゴ都市圏の住民)とされる。

 ホームを南へ歩いていると、同じ方向のレッドラインの電車が入線してきた。よく見るのは駅のホームの先端部近くに列車の先頭が止まるというパターンだが、ここでは停車位置の先までホームがずっと続いているという何とも不思議な光景だ。「地下鉄で世界一」というホームの長さを体感するため、あえて電車には乗らずに歩き続けた。

 ▽「歩いても 歩いても」

 いしだあゆみさんの曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」の歌詞を引用すれば「歩いても 歩いても」終端にたどりつかないホームで、先がカーブになっているためホームが切れる場所を見通すこともできない。

 すると、ホームの真ん中に上へ向かう階段が出てきた。「もう次の駅に着いたのか」と思いきや、出口へ向かう階段入り口の柵を閉じている。階段脇の壁面の白いタイルには「WASHINGTON」の黒文字が躍り、高さ442・1メートルと米国で2番目に高い超高層ビル「ウィリス・タワー」といったシカゴ名物のビル群を水色で描いていた。

廃止になった旧ワシントン駅のホームに残る駅名表記

 だが、手元のスマートフォンの画面でレッドラインの路線図を見てもワシントンの駅名は記されていない。近隣にある「L」のブルーラインにはワシントン駅が今も稼働しているが、階段入り口の柵が閉まっていることが示している通りレッドラインでは廃止された駅なのだ。周辺地区の再開発工事に伴い、2006年に役割を終えたという。

 ▽思い出す旧博物館動物園駅

 思い出されたのが1997年に営業休止になり、2004年に廃止された京成電鉄の京成上野―日暮里間にあった旧博物館動物園駅(東京都台東区)を訪れた時のことだ。西洋風のしゃれた外観の駅舎は趣があり、廃止後の18年に東京都選定歴史的建造物に選ばれた。しかし、駅舎脇に掲げていた「京成電鉄 博物館動物園駅」の看板は地味で、大都会にありながら場末感を醸し出していた。

京成電鉄の旧博物館動物園駅舎の外観=2021年2月、東京都台東区(提供写真)

 まばらな蛍光灯が照らしているだけの薄暗い構内の階段を下りると、そこには自動券売機も設置されていなかった。ブースで係員が切符を売っている昔ながらの仕組みで、切符を買って改札を通り抜けると目の前にあるホームがあった。ところが、そのホームに発着するのは京成上野方面の電車で、次駅で終点の京成上野しか行き先がない。

 反対方向の電車に乗るためにホームの途中にある階段を下り、反対方向への通路を進んだ後に階段を上りきった。そこには正面の壁面に2頭のペンギンが描かれており、色あせた絵はどこかシュールだった。近くにある上野動物園をイメージして描かれたようだが、動物園の愛らしいペンギンの姿とはほど遠い。

 博物館動物園駅は普通電車しか止まらないどころではなく、普通電車でも多くが通過していく。というのもホームの長さが4両分しかないため、普通電車でも4両編成以外は通過したのだ。それだけに使い勝手が悪く、京成電鉄によると休止直前の利用者数は1日当たり約490人まで落ち込んでいた。

京成電鉄の旧博物館動物園駅のプラットホーム跡=21年2月、東京都台東区(提供写真)

 これに対し、旧ワシントン駅は持て余すほどの長いホームがつながっている。しかもレッドラインは24時間運転のため、廃止になった後も“遺構”にいつでも足を踏み入れられる。

 ▽一体どこまでが駅!?

 旧ワシントン駅のホームを進んでいるとレッドラインの南へ向かう電車が通過していき、少し先で停車した。それが次の駅のモンローだと分かった。

 モンロー駅に着いてからもホームが先に延びており、わずかの徒歩で次のジャクソン駅に着いていた。さらに歩くと電車の停止位置の少し先に壁があり、これが北端のレイク駅から続いてきたホームの南端だった。

 つまり、現在稼働している3駅と、廃止されたワシントン駅を含めた実質4駅分と、それぞれの短い駅間距離にわたって連なっているため1キロ超に及ぶ長いホームなのだ。もしも「1駅当たりのホームの長さが世界一の地下鉄駅」という定義ならば現在稼働中の3駅のうちのどれか、あるいは別の場所にある駅なのかという点も気になったが、残念ながらそこまで細かい調査を見つけることはできなかった。

 駅ごとにホームを区切らずにレイク駅からジャクソン駅までつなげた理由は「利用者が多いときにホームが人であふれることがないようにする混雑対策のため」(鉄道情報サイト)とされ、駅間距離も短いので1本の長いホームを建設したほうが効率的だと判断したとみられる。

地下鉄で世界最長のプラットホームの南端になっているジャクソン駅

 レイク駅からジャクソン駅まで歩く所要時間は、正確に計測したわけではないが10分余りか。レッドラインは途中のモンロー駅に止まる時間を含めても2分で結び、利用者が多い夕方のラッシュ時ならば3~6分間隔で運行している。

 切符を持っているのに電車に乗らず2駅先まで歩いてしまうのは、ケーブルカーの乗車券を買いながら登山道を歩くような理不尽さがあるかもしれない。だが、ホームを通って2駅先まで歩け、途中で廃止になった駅の“遺構”まで見学できるのは貴重な体験なのも間違いない。皆様ならば、どちらを選ぶだろうか?

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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