産学官の起業支援 投資家呼び込む仕組みを 長崎

2022長崎県知事選 まちの課題点検・15完

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東京から長崎に移住し「MuuMu」を創業した川口さん。県内外のイベントなどで生まれた「つながり」が長崎で起業した利点という=長崎市出島町、CO-DEJIMA

 専用のヘッドセットをかぶると、立体映像で再現された天草四郎が現れ、キリスト教の伝来の歴史などを語り出す-。島原城(島原市)で昨年4月、そんなユニークなサービスが始まった。
 開発したのは、長崎市のベンチャー企業「MuuMu(ムーム)」。最先端の技術「ミクスト・リアリティー」(MR、複合現実)などを使ったサービスを手掛けている。前例にとらわれない新事業で急成長を目指すスタートアップ(新興企業)の一つだ。
 共同代表取締役の一人、川口肇さん(45)は東京でゲームやVR(拡張現実)などのコンテンツを作る「3Dデザイナー」などとして20年ほど働いた経験がある。愛知県出身だが、2016年に妻の故郷、長崎市に移住した。「観光業が盛んで歴史や文化が深い長崎で自分の技術が役立つのでは」と考えた。
 年齢も若くなく、再就職ではなく「起業しないと食べていけない」と、移住後は個人で請け負った仕事を進めつつ、県の起業支援窓口などに相談しながら、17年に仲間とムームを起業した。
 県は19年3月、スタートアップの交流促進を目的とした拠点施設「CO-DEJIMA」(コ・デジマ)を長崎市に開設。1期生の川口さんは、県内外のイベントなどで交流しながら事業をPRしてきた。19年度はコ・デジマを約4500人が利用しており、そこでできた企業や人とのつながりも利点だという。
 起業後に見えてきた課題もある。技術を売り込む営業に苦労する一方、「長崎には挑戦する人が少ない」と感じている。
 県によると、県内の年間起業数は、飲食や理美容などを含め600件以上。一般の起業支援は各市町や商工会議所などに任せ、県は「スタートアップ」に特化した施策を展開。スタートアップの集積や成長により新たな雇用を生み出し、「人口減少対策に貢献する」狙いもある。コ・デジマ関連のスタートアップは10社以上。ムームのような企業が生まれ、県の担当者も「スタートアップの芽は出つつある」とみる。
 ただ、新型コロナウイルス感染症が影を落とす。コ・デジマは事業者や起業を志す人などさまざまな人が出入りする交流の場だが、感染拡大で営業時間を短縮し、対面イベントも自粛。オンラインを活用しているが「画面越しの交流ではチャンスが小さくなる」と県の担当者は危惧する。
 一方、長崎大は19年度、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG、福岡市)と共に学生らが起業について学ぶ「FFGアントレプレナーシップセンター」を同大に開設。元センター長で十八親和銀行主任調査役の山下淳司さん(51)は「知識や経験、人脈を学生に与えることができれば、新しい産業が生まれやすくなる」と意義を語る。
 同大は、社会が抱える課題を自ら解決できる人材を育成しようと、16年度から「ビジネス実践力育成プログラム」にも取り組んでいる。地元企業や自治体と連携し、企業や社会の課題解決に向けて学生がアイデアを出し合い実践力を身に付ける。同大人文社会学域の西村宣彦副学域長(61)は「失敗を恐れる学生が多いが、失敗から学ぶことがある」と強調。ただ、起業については卒業後の22歳ほどの学生は資金力がなく、助成金も少ないため難しいとして勧めていないという。
 県内には起業間もない企業に出資する「エンゼル投資家」が少ない現状を課題に挙げ、起業を増やしていくために「民間の(小規模な)投資家を呼び込む仕組みがあるといい」と要望。
 起業支援に重要なのは資金を提供する「投資家」と「アイデアを考える場」だとして、起業に成功した人と一緒に考える場を設けて「多角的に深めると新しいアイデアが生まれる」と行政に場の創出を期待する。人口減少に歯止めがかからない県都で起業家育成に向けた産学官の模索が続く。