キャンプに続々登場「ダミーくん」って何者? 強豪校も使用…製作者が込めたこだわり

楽天などのキャンプで使用されている「ダミーくん」(奥)【写真:荒川祐史】

「フィールドフォース」が12年前に開発し、現在は“4代目”

プロ野球キャンプのブルペンで存在感を放つ1体の人形がいる。その名も「ダミーくん」。打席に立ち、投手陣の調整に一役買う。ヤクルトには“特別仕様”も登場した。“彼”は一体、何者なのか――。

【画像】ヤクルトキャンプでも実際に登場した特別仕様の「ダミーくん」

誕生は12年前にさかのぼる。野球用品を製造、販売する「フィールドフォース」が学童野球、少年野球向けに開発した。吉村尚記社長は「練習ではストライクが入るけど、実戦になると打者が立って当ててはいけないと腕が縮こまって思うようにストライクが入らない子どもたちが多かった。投球練習をするときも常に打者と対戦している練習環境をつくりたいと思いました」とキッカケを語った。

試行錯誤を繰り返し、現在は“4代目”。こだわりは細部にたっぷり詰まっている。土台となる三脚部分を動かすことで身長は120センチから180センチまで調整可能で、あらゆる打者を想定できる。人形はメッシュ材の軽い素材を使い、例え当ててしまったとしてもクルっと回転。球の軌道が変わり怪我をする恐れを取り払った。また回転することで右打者と左打者の“リバーシブル”で使用することもできる。運送料を抑えるために折り畳み式とし、横40センチ、縦20センチの箱に収納可能。重さはわずか約2.5キロだ。12年間、価格は一切変えずに税込み6600円で勝負し続けている。

打席に設置し、実戦をイメージした練習環境を作り上げる【写真:編集部】

ヤクルトには“特別仕様”を納入

今春のキャンプ前、吉村社長はヤクルト・伊藤智仁投手コーチから“バージョンアップ”の相談を受けた。それは胸元、膝元に黄色い線で示しているストライクゾーンを「横に棒が出ていると投手からはもっとゾーンが分かりやすいからどうにかなりませんか」というものだった。

「大変でしたね。重い素材だと棒が垂れてしまいストライクゾーンが地面に対して平行にならない。固い素材だとボールが直撃した時に捕手側に軌道が変わる危険性がある。色々な素材を試しました」と話す吉村社長が行きついたのが、釣り竿などで使われるカーボン素材のグラスファイバーの棒だった。フックで取り外し式にすることで水平な形状も保たれた。無事に「ダミー君特別バージョン」もキャンプインを果たすと、伊藤コーチをはじめヤクルトナインから「使い勝手がいい」との反応があり、吉村社長も胸をなでおろした。

学童野球をターゲットにして始まったが、現在では大阪桐蔭高など強豪校がこぞって使用する。さらにプロ野球の世界でも自主トレで使用する選手が増え、キャンプでも楽天やソフトバンクのブルペンに立っている。12年間、売上数は右肩上がりで、同社の看板商品で居続け、ジワジワと浸透してきた。

名前のごとく、打者のニセモノとして生まれた「ダミーくん」。野球を始めたばかりの少年少女からプロまで、幅広い層から必要とされる唯一無二の存在となった。

【画像】ヤクルトキャンプでも実際に登場した特別仕様の「ダミーくん」

【画像】ヤクルトキャンプでも実際に登場した特別仕様の「ダミーくん」 signature

(町田利衣 / Rie Machida)

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