“不公平な”ピット作業規則や、抗議噴出のチームオーダーにメス。GT3化2年目を迎えるDTMの変更点

 DTMドイツ・ツーリングカー選手権は、スーパーGTシリーズとコラボレーションした『クラス1』規則が2020年限りで終焉を迎えた後、2021年にGT3車両によるレースへと生まれ変わった。その初年度を終え、このオフの間にいくつかのルール変更が行われている。

 シリーズのプロモーター、ITRでオペレーション&イベント・ディレクターを務めるフレデリック・エルスナーは、GT3車両での2年目のシーズンを迎えるにあたり、GT3初年度と比べてシリーズがより「強力」なものになると確信しているという。

 エルスナーは、DTMのオーガナイザーが2021年に「多くのことを学び」、その独自のグローバルなレーシングプラットフォームによる「明るい未来」を構想していると語っている。

「当初、(クラス1規定最終年となった)2020年の状況はあまり良くなかった」とエルスナー。

「だが(GT3という)車両の導入に際し、新たに(スポーティング)規則も変更することはしなかった。我々は“緊急事態”のなかで、本当に良いものを構築できた」

「ファンは参戦する自動車メーカーの多さが気に入っているし、ドライバーに関しては最高のレベルだ。これには多くのアドバンテージがある。(2022年からの導入が決まった、自動車サービスプロバイダの)AVLとメディアを用いたBoP(性能調整)の手法についても、とても良いものだ」

「我々がいま手にしている規則、そして知見により、シリーズには明るい未来があると思っている」

「我々はすべてを可能な限り正しくするよう、細心の注意を払った。また、レースウイークを通じて多くの知見を得た」

「(2022年からの)新たな規則によって、多くのことが変わる可能性がある。昨年学んだ多くのことを新規則には盛り込んだので、昨年よりもしっかりとした基盤ができていると思う。この規則により成功しないことがあるなんて思ってもいない」

 2021年は19台だったDTMのフルタイム・エントリーは、2022年には20人(台)となる。

「2020年を経て(GT3での)最初のシーズンに入る際には、多くの疑問があった。『GT3車両でレースするのか?』『適切なBoPを設定できるのか?』『シリーズは生き残ることができるのか?』など、我々は多くの疑問を抱いていた」とエルスナー。

「チームとドライバーに参加してもらうのには、しばらく時間がかかった。だがいまは、説明する必要がない。少なくともこれだけの参戦車両があるのなら、もうひとつのクルマ(クラス1)よりは良いものになるだろう」

「それこそが、我々がより強い立場にある理由だ。グリッド(参戦台数)に関しては、より強力になる。昨年は何人かのゲストドライバーがいたが、今年はそれを必要としない」

「昨年は、いくつかのブランドとドライバーが、それを試した。今年、ゲストドライバーを許可するのは、それが本当に理にかなっている場合、たとえば有名人であったり、DTMトロフィーで活躍している誰かである場合のみだ。それは、我々がより強力な立場であることを示している」

■多数の抗議が寄せられた2021年最終戦のメーカーオーダー

2021年DTM最終戦ノリスリンク、メルセデス勢のメーカーオーダー、そしてケルビン・ファン・デル・リンデとの接触により、リアム・ローソン(中央)はタイトルを手にできなかった

 DTMがこのオフに取り組む必要があるホットなトピックのひとつは、トラック上の順位に影響を与えるチーム(メーカー)オーダーについてだ。

 2021年、ノリスリンクにおけるシーズンフィナーレでは、メルセデスAMGからオーダーが発令された結果、マキシミリアン・ゲーツがレースに勝利し、チャンピオンシップを獲得した。

 エントラントとの協議、そしてファンからの激しい抗議を経て、2022年シーズンにおいては、チームまたはメーカーオーダーを実行したことが証明された当事者に対し、DTMは除名・追放することがあると発令している。

「非常に多くのメールや電話があり、ファンが本当に気にかけていることがわかった」とエスルナーはノリスリンクでの2021年最終戦への反応を振り返る。

「我々は、常にファンの側にいる。我々にとって、そして我々のシステムにおいて、ファンは非常に重要な存在だ。我々は観客と、テレビ視聴者に大きく依存している」

「それが我々に圧力をかけたわけではないが、我々がしなければならにことをさらに明確にした。ファンがパドックから離れるのは望ましくない」

「そのようなフィードバックを受け取った場合、誰も気にしていない状態よりも、それらに対応することは難しくなる。ファンのためになればと思う」

「我々は物事を明確にするために、声明を出すことに本当に集中していた。このようなことで誰かを失いたくはないので、我々は間違いなくそれ(チームオーダー)に目を向けてきた」

■フェラーリとメルセデスに有利だったルールを改定

 もうひとつの重要なルール調整は、ピットストップ作業法の強制に関してだ。

 これは昨シーズン、フェラーリとメルセデスAMGにおいて、(ホイールとナットが一体となっている)そのホイールのロック機構を利用して、ピットタイムを削減していた状況に対処するためのものだ。

 これらの車両の場合、メカニックはまずフロント(またはリヤ)のホイールナットを緩める。このメカニックがインパクトレンチを持ったままリヤ(フロント)へと走ってタイヤ交換作業を行っている間に、別のメカニックがフロントホイールを外して、新たなホイールを装着。リヤの交換を終えたインパクトレンチ担当が再びフロントへと戻り、ナットの締め付けを行うというものだ。

 ホイールナットが別体となる他メーカーの車両では、最初のホイールを完全に交換してからでないともう1輪の作業にとりかかれなかったため、フェラーリとメルセデスAMGを使用するチームだけが上記のプロセスを採用して作業時間を節約することができていた。

 2022年はルール改定により、タイヤ交換担当者はリヤから作業を始め、その後フロントを交換するように定められた。これにより公平さが生まれるだけでなく、作業終了をドライバーが目視できることから、安全性も高められるという。さらに、エアジャッキのオペレーターは、タイヤ交換ヘルパーを兼任することが許されなくなった。

「2022年の規則では、ピットストップ作業に関わることができるのは4人だけだ」とエルスナーは説明する。

「つまり、車両の左右にふたりずつがいて、そのうちひとりずつが独占的にインパクトレンチを保持する。彼らはリヤから作業を開始し、タイヤを完全に交換してから、フロントへと移らなければならない」

「(昨年のルールにおける)アドバンテージは小さなものではあったが、いまはそれは完全に消滅した。誰もがリヤからフロントに向かい、同じ動きをするようになる。各車両の間で、これは可能な限り同等でなければならない」

 さらなるルールの変更には、必要に応じたフルコース・イエローのデプロイと、各レースウイークの第2レースからのニュータイヤのセット数の追加がある。また、各レースで最速ラップをマークしたドライバーには、チャンピオンシップで1点が付与される。

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