<書評>『福木巨木の巡礼誌』 現代の蔡温が語る フクギの力

 沖縄の集落や御嶽をめぐり、樹齢数百年を超えるフクギの巨木に出会い、その生命力に魅了され、時を忘れて安息感に浸った経験がある。
 2021年12月、神戸にズシリと重い1冊の本が届いた。著者らが巡った集落のフクギの巨木の記録である。写真をじっと見つめていると、フクギの部分部分がイメージされ、蔡温の風景が見えてくるようだ。まるで、意識していなかった環境の記憶を発見したような感覚だ。
 琉球弧の集落では、フクギは身近な樹木であり、村の抱護、御嶽の森、参道、屋敷林と、村の生活はフクギに包まれている。奄美から台湾にかけての琉球石灰岩地帯とモンスーンアジアの気候帯は、フクギの生育に適しているといわれ、かつて蔡温はフクギの植林を奨励した。本書は、十数年をかけて琉球列島各地を巡り、フクギの実測調査から5千本以上のフクギの樹齢を特定し、147本のフクギ巨木のデータを抽出し、現状、由来、歴史などを体系的に記録したものである。最終目的は、100年後に同様な調査を行い、フクギの成長量を把握し、より正確な樹齢を推定することであり、まさに科学者のかがみである。
 フクギにこだわるお二人に初めてお会いしたのは、06年11月だった。会うなり仲間勇栄さんは「フクギはなんでも知っている、琉球では300年を超える歴史がある」と言った。蔡温たちの手で植えられ、育てられたフクギは、気候の変化や戦乱に対応し、樹林帯の土地を安定させ、家を守り、農地を有効に活用する自然生態系をつくり出してきた。フクギの分布を調べれば、計画された集落や屋敷構えを復元することができる。フクギを植え、育てる。フクギと人が共生する。フクギは使われ、また植えられる。このサイクルは、何百年も生き続けてきたフクギの巨木への畏敬の念の表れでもある。
 著者は、大地に根を張るフクギを抱きしめることで、現世の煩悩から開放され、心が清らかになり、生きる力が湧いてくるという。さあ、この本と一緒に琉球弧の集落へ旅に出よう。
 (齊木崇人・神戸芸術工科大学長)
 なかま・ゆうえい 1948年宮古島生まれ、琉球大名誉教授。著書に「島社会の森林と文化」「蔡温と林政八書の世界」など。
 くりま・げんじ 1951年多良間島生まれ。琉球大農学部林学科卒業後、論文執筆のほか、「総カラー写真集沖縄百景」など手がける。
 
福木巨木の巡礼誌 文・仲間勇栄 写真・来間玄次
B5判 320頁(オールカラー)

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