お疲れさまでした

 彼が県庁に入ったのは1973年の春。プロ野球は巨人の「V9」の最後の年、秋には第1次石油ショックが起きた。振り出しの配属先は税務課▲当時の税務課長は旧自治省から出向していた二井関成さん。のちに山口県の知事になり、2012年まで4期務めた。知事同士で名刺を交換する未来のことを、若かった2人のどちらか一方でも想像していたかどうか▲「ナカムラさんもどうぞ」と椅子を勧められても、ニコニコと首を横に振って、めったに座ろうとしなかったのは高田勇知事の随行役を務めていた頃。自身が知事になってからは「恩返し」をしばしば口にしていた、と聞いた。胸にあったのは、育ててくれた県庁への恩か、長崎県への恩か▲そう、こんな人なんだよ…と思わず言いたくなる写真を9年前の紙面で見つけた。東京・銀座のデパートで開かれた県産イチゴのPRイベント、真っ赤な法被を着込んでとても楽しそうに陣頭指揮に臨む姿がある▲買い物客を迎える気さくな笑顔は、どっかの「知事さん」になど見えなかったはずだ。もちろん、いい意味で。きっと「現場」の熱気が大好きだったのだ-と改めて勝手な想像をしている▲入庁の日から数えて1万7867日目。通い慣れた県庁舎をきょう後にする。中村知事、お疲れさまでした。(智)

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