核使用の危機

 「ハリネズミを送り込んで、やつらがのみ込めないようにしてやる!」。当時のソ連の最高権力者、フルシチョフ首相が息巻いた-と、戦史研究家の山崎雅弘さんの著書「キューバ危機」(六角堂出版)にある。ハリネズミは核ミサイルを指す▲米国が、関係悪化した隣国キューバをのみ込む、つまり侵攻すれば、こっちは“とげ”をキューバに持ち込んで阻止する、と。米国はキューバを海上封鎖して、ミサイル配備に対抗した▲今年で60年になるキューバ危機は、米ソともども相手の出方に不安や焦りを抱き、疑心暗鬼になって、事態は「核戦争の瀬戸際」となる。ぎりぎりの局面で、キューバに侵攻しないのを条件に「ハリネズミ」は退いた▲ロシアのウクライナ侵攻で、プーチン大統領は核の使用をちらつかせている。米報道官は、核兵器を持ち出した挑発が「思い違いによる危険を招くおそれがある」と戒めた。「思い違いによる危険」。キューバ危機を連想させる▲侵攻はロシアの思い通りに進んでいないとみる向きが強い。焦りや不安に駆られて「核による破壊」に突き進まないか▲60年の時を経て、またも核使用の恐れが現実に迫る。使って何になるのか。使えばどうなると思うのか。聞く耳を持たず、暴走する大統領を、それでも問い詰めないといけない。(徹)

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