「拘禁刑」一本化 龍谷大法学部・浜井浩一教授に聞く 「開かれた刑務所」社会が受容を

浜井浩一氏

 懲役刑と禁錮刑を廃止し「拘禁刑」に一本化する内容を盛り込んだ刑法改正案が8日、閣議決定された。犯罪学が専門で刑務所での勤務経験もある龍谷大法学部の浜井浩一教授(61)に改正の意味合いと課題、地域社会が受刑者と関わる海外の事例を踏まえて今後の展望を聞いた。

 懲役刑は「懲らしめ」のために刑務所内で所定の作業をさせるもの。現役世代を前提としており、認知症など高齢受刑者が増える中で実行不可能な状況になってきている。
 改正案の条文には「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」との文言が盛り込まれた。作業だけだったのが、法改正で本人の特性に応じた改善指導プログラムも取り組みやすくなる。
 明治以来続いてきた懲役刑が廃止される、象徴的な意味は大きい。ただ本質的なところがどこまで変わるかはまだ見えない。
 日本の刑務所は「刑務作業」を義務付け、集団行動で規律を守らせることで秩序を維持し、少ない職員で多数の受刑者を管理している。一方、改善更生には本人の自発性が不可欠だが、作業は強制なので、再犯防止効果としてはほぼ機能していない。
 法改正で本人の特性に応じた個別的な処遇を進めるには、現状ではマンパワーが足りない。複数のプログラムを用意するノウハウもない。Aには作業だけをさせ、Bは作業はしなくていいとなると不満も出てくることが予想される。
 当面は刑務作業中心を維持しつつ、少しずつプログラムを増やす形にせざるを得ない。受刑者のニーズや改善更生に必要なプログラムを精査し、導入する際にはニーズに合う受刑者を選別して受けてもらう。少しずつ選択肢を広げ、徐々に刑務所の在り方も変えていく。そのためには社会との関係性も変えていかないといけない。外部通勤など社会との接点を増やすことが社会復帰を容易にし、再犯防止効果が高いからだ。
 イタリアやノルウェーでは受刑者は刑務所にいる間も日常生活に近い環境で、市民サービスにもアクセスできる。ノルウェーでは福祉的支援が必要な受刑者を自治体担当者が途切れることなく支援している。イタリアでは受刑者が自治体のトライアル雇用制度を利用して仕事に通っている。逆にボランティアを含め外部の人間がプログラムや余暇活動の運営を担っている。
 日本は縦割りなので、刑務所にいる間は法務省が面倒を見ているが、受刑者は必ず社会に戻る。(自治体の責務を明記した)再犯防止推進法が2016年にできた。自治体担当者らとの協力体制をうまく築けるかが重要だ。「開かれた刑務所」に対して理解し、受容できる社会をつくっていかないといけない。

 【略歴】はまい・こういち 1984年に法務省に入り、刑務所や少年院、法務総合研究所、在イタリア国連犯罪司法研究所などで勤務。2003年から龍谷大。19年から同大矯正・保護総合センターのセンター長を務める。日本犯罪社会学会会長。


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