毎年見直しされる公的年金額、今年は0.4%の値下げで年金額はいくら減る?年金改定3つのルール

老後の生活をささえる大きな柱、公的年金。いくらもらえるのか、その金額は毎年見直しされています。2022年度の年金は、前年より0.4%ダウン。

将来の年金が不安視される中、年金額のマイナス改定でさらに不安になってしまいそう。このまま下がっていったら、実際に受取る時にはどうなっているのか心配になってしまいますね。

今回は、年金額の改定と、その影響について考えてみましょう。


年金額はいくら減る?

2022年1月21日、厚生労働省の発表によると、2022年度の年金額は、前年より0.4%引き下げになります。

そのため、2022年から国民年金を満額受け取る人は、2021年度よりも259円値下がりして月額6万4,816円、厚生年金(夫婦2人の標準的な年金額)では、903円値下がりして月額21万9,593円です。

※国民年金:老齢基礎年金(満額)の1人分
※厚生年金:夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額

国民年金で考えると、月あたり259円ダウンなので、1年で3,108円減。
259円×12カ月=3,108円

そうすると、65歳から95歳までの30年間受けとる場合には、9万3,240円の影響がある、と考えてしまうかもしれません。
3,108円×30年=9万3,240円

ならば、年金の繰下げ受給をして年金額をアップさせればよい、という考え方もありますね。

繰下げ受給は、1カ月繰下げるごとに年金額が0.7%増額されます。今回の年金額改定はマイナス0.4%でしたから、1カ月で取り返せるマイナス幅です。

とはいえ、年金額は毎年改定されるので、2022年限りの改定ではありません。毎年0.4%ずつ減額されていったらどうなってしまうのでしょうか。もしもそのようなことになったら、20年後には国民年金を満額受け取ったとしても6万円に満たない金額になってしまいます。

どんどん少なくなって、ついには……となったら大変ですね。年金はずっと続く制度なので、誰もが安心できるようにしておくことが大切。そのために年金額の改定率は、経済状況に合わせた改定ルールにしたがって、毎年変わっています。

年金改定3つのルール

改定ルールを見ていきましょう。

年金改定ルール1:賃金スライド

年金は、世代間の仕送りの制度です。家族間でも、現役世代の子が、高齢の親に仕送りすることがあるでしょう。同様のことを、国全体の制度として行っているのが老齢年金です。
ですから、現役世代の子としては、収入が多ければたくさん仕送りしてあげられますが、少なければ、その分仕送りが少なくても仕方ありません。

同様に、国全体の賃金=収入の変動率に合わせて、年金額を変更するのが「賃金スライド」というルールです。厳密には、賃金スライドは名目手取り賃金変動率によって変更します。

名目手取り賃金変動率とは、2年度前から4年度前までの3年度平均の実質賃金変動率に前年の物価変動率と可処分所得割合変化率を乗じたものです。 2022年度の改定では、名目手取り賃金変動率が以下の計算により-0.4%でした。

2018~2020年度の平均実質賃金変動率(-0.2%)+2021年の物価変動率(-0.2%)×2019年度の可処分所得割合変化率(0.0%)
※可処分所得割合変化率はゼロのため、(-0.2%)+(-0.2%)=-0.4%

賃金スライドは、新規に老齢年金を受け取り始める人の年金額についてのルールです。これから受け取ろうとする高齢世代の年金額は、現役世代のお財布事情によって変化する、というルールです。

年金改定ルール2:物価スライド

年金暮らしを続けている人にとっては、年金額がいくらに変更されるかは、生活を左右する大きなことです。先月までもらっていた金額から大幅な減額をされてしまったら、生活が立ち行かくなってしまいますよね。
そのため、すでに年金を受け取っている人に対しては、「物価スライド」のルールが適用されます。

物価スライドは、総務省が作成する年平均の全国消費者物価指数によって決まります。
2021年の消費者物価指数は、2020年とくらべて、-0.2%でした。
そのため、物価スライドは-0.2%なのですが、賃金スライドのマイナス分が物価スライドよりも大きい場合には、賃金スライドを適用する、という特別ルールがあります。

そのため、2022年度改定では、すでに年金を受け取っている人も年金額が-0.4%になります。これは、年金制度をささえる現役世代の負担能力に応じた年金額とする、という観点によるものです。家族間でたとえると、昨年までは○○円の仕送りができていたけれど、収入が減ってしまったから今年は少なくなるけど我慢してね、ということです。

年金改定ルール3:マクロ経済スライド

年金制度は、超少子高齢化が進むにつれて、現役世代の負担が重くなることが心配されています。マクロ経済スライドは、将来の現役世代の負担が大きくなりすぎないよう、「最終的な負担=保険料の水準」を決めておき、保険料などの収入と年金の給付水準を調整するものとして、2004年の年金制度改正で導入されました。

マクロ経済スライドによる調整を計画的に行うことで、将来の年金の給付水準を確保することにつながります。大まかに言うと、年金額を毎年すこしずつ下げていく計画なのですが、5年に一度の財政検証で、その後のマクロ経済スライドによる調整が必要かどうか検証されます。

2022年度は、以下の計算により-0.2%でした。
2018~2020年度の公的年金被保険者数の変動率(0.1%)+平均余命の伸び率(-0.3%)

そこに、2021年度からの繰り越しが-0.1%あるので、合計で-0.3%なのですが、賃金・物価スライドでマイナス改定があった場合には、マクロ経済スライドは行われません。

以上の通り、公的年金は、現役世代の収入に応じた「賃金スライド」、物価の変動に応じた「物価スライド」、年金財政に応じた「マクロ経済スライド」によって改定されます。

賃金スライドがマイナスの場合には、物価スライド・マクロ経済スライドに優先して適用されるので、2022年度の年金額は、賃金スライドの-0.4%が適用とわかりました。

このことから、現役世代の賃金が上がったり、景気がよくなって物価が上がったり、経済状況がよくなってくると、公的年金額も上がるということです。

人手が少なくなっても収入が減らないような生産性向上、景気上昇の指標でもある緩やかな物価上昇、経済活性化にもつながる投資など、さまざまなことが将来の年金として自分に返ってくるのではないでしょうか。

公的年金を増やす方法

とはいえ、給料アップや物価の変動は自分ひとりがコントロールできることではありません。将来の年金を増やすために、個人ができることを見ていきましょう。

追納
保険料を納めた期間が40年に満たないと、満額はもらえず年金額が少なくなってしまいます。学生納付特例や、納め忘れの未納がある場合は追納をすると保険料納付期間を増やすことができます。ただし追納には期限があり、10年を超えると追納できませんので注意が必要です。

任意加入
60歳時点で、国民年金の加入期間が40年に満たない場合、65歳まで任意加入できる制度があります。年金保険料を1年分まとめて納めると、前納割引によってさらにおトク。年金は一生涯受け取れますので、長生きリスクには貯蓄より公的年金が優先です。

【おまけ】企業年金の加入期間をチェック
企業が独自で行う企業年金は、1カ月でも加入期間があれば受け取れますが、把握していない人も多いと言われます。年金は自分で請求しないともらえないので、過去に短期間でも働いていたところがあれば確認をしましょう。


公的年金は、誰もが安心して暮らしていかれる社会のために大切な制度です。経済状況によって、年金額が減ることもあれば増えることもあります。
今回は詳しく紹介していませんが、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)やつみたてNISA(積立NISA)などで自分でできる対策も含めて、しっかり老後に備えていきたいですね。

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