「生理で負担感」85%超 心身、社会的に 「生理の貧困」アンケート 用品購入をためらう人や孤独感抱える人も

生理用品の購入などで困った経験がある人の声。低収入や家庭環境が背景にある実態がうかがえる

3月8日の国際女性デーに合わせ、長崎新聞はLINE(ライン)を活用した情報窓口「ナガサキポスト」で「生理の貧困」についてアンケートを実施。長崎県内の生理の貧困を巡る現状や課題を分析した。アンケート結果では、生理の経験がある女性の85%以上が生理によって負担を感じたことがあると回答。生理用品の購入をためらった経験がある人も約20人いた。全体を通じて、生理に関する様々な不調を周囲に受け止めてもらえない孤独感や、社会全体で生理や生理の貧困への理解を高めることを望む声が浮き彫りになった。県内の識者2人にも結果について意見を聞いた。(嘉村友里恵、酒井環)

 アンケートは2月18~25日に実施。生理用品の無料配布などに取り組むボランティア団体「『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき」の監修で生理を巡る経験、疑問や課題と感じる点などを選択式や記述式で質問。10~80代の363人(女性301人、男性61人、「答えたくない」1人)が回答した。
 「生理があることによって(身体、精神、社会的に)負担を感じたことがありますか」という設問では、生理の経験がある女性のうち60.6%が「ある」25.8%が「時々ある」と回答。「あまりない」は11.9%、「全くない」は1.7%だった。
 負担として多く挙がったのは、生理痛や情緒不安定など心身の不調、経血の漏れへの不安など。壱岐市の20代女性は「数日間は身体のだるさや痛みで必ず仕事を休んでしまう」、東彼東彼杵町の10代女性は「当たりたくないのに友達に当たってしまう」とした。

女性が生理によって負担を感じた経験の有無

 生理による不調を我慢するという人も多く、長崎市の40代女性は「腹痛や頭痛があるのに『何にもないように』鎮痛剤などを飲んで普段通りに仕事をし、家事、育児をする」と吐露。佐世保市の30代女性は「生理痛がつらくても周りに言えない。我慢するのが当たり前と思われている」と明かした。
 周囲の無理解に傷つく人も。長崎市の20代女性は生理中でパートナーと性交ができず「『それならもういい』などと言われた。自分ではどうすることもできず、むなしい」と告白。同市の50代女性は「(同性同士で)症状を話しても分かってもらえず苦しんだことが多々あった」とした。
 男性を中心とする生理の経験がない人からは「話題にしづらい」という声が多数。同市の60代男性は「小さな気遣いが大きな見当違いと思われそうで、理解したくてもちゅうちょする」と打ち明けた。

 ■購入ためらった経験「ある」20人 低収入など背景

 「生理の貧困」という言葉を聞いたことがある人は回答者全体の90%以上。経済的理由などで生理用品が購入できなかったり、交換をためらったりした経験の有無を尋ねたのに対し、「経験している(したことがある)」と答えたのは約20人だった。背景に低収入などの問題がうかがえ、生理用品を買うために他のものを買うのを我慢したり、トイレットペーパーなどで代用して使用回数を減らす人がいた。父子家庭や共働き家庭などの家庭環境から、生理用品の不足を言い出しづらいことが原因の例もあった。
 長崎市の10代女性は「意外と生理用品や鎮痛剤の値段が高い」と感じている。同市の40代女性はコンビニで「このおにぎりを買うとナプキンを買うお金が足りなくなる」と思うことも。佐世保市の50代女性は収入が少なく「削れるものと考えると、生理用品だった」。
 家族に月経がある女性が多いと、生理用品の購入による経済的負担は大きくなる。長崎市の60代女性は自身と娘3人で「誰かが常にナプキンが必要」。家計が厳しくても子どもに不自由をさせないために「私がなるべく使わないようにタオルを布ナプキンにして使ったりしていた」とした。
 長崎市の50代女性は「共働きの両親の姿を見て、経済的にも苦しかったので生理用品を購入するのを言いにくく、使う枚数を節約していた」と告白。父子家庭だった同市の20代女性は「父に生理用品を買ってもらうことも、自分で買うことも恥ずかしく、遠くに住む叔母に買ってもらったものを切り詰めながら使っていた」と打ち明けた。

 ■毎月の費用「500円~1000円未満」が最多

 生理の経験がある女性に、毎月生理に使っている金額を聞くと「500円~千円未満」が最も多く、全体の約3分の1に上った。これに対し、生理経験がない人の“想像”では「千円~2千円未満」が最多で、双方に2倍程度の開きがあった。
 出費の内訳は、9割以上が経血を受け止めるための「生理用品の購入」を回答。4割強は生理痛用の鎮痛剤や、生理用下着の購入などを挙げた。
 一方、生理について知りたいことの有無を尋ねた質問で「ある」と回答した人は全体の3割程度。「ある」とした人に「何を知りたいか」を選択式で尋ねると、生理の経験者では「生理中の症状の理由」が最多。「つらい症状を病院に相談するタイミング」「不快な症状への対処の仕方」などと続いた。
 未経験者では「生理中、前後の人への接し方」を挙げた人が最も多かった。

生理に使う実際と想像の金額

 ■性別問わず多様な声 実態や支援に関心

 生理や生理の貧困に対する考えや思いを記述式で尋ねたところ、多様な声が寄せられた。
 生理用品購入などに困っている人について、県内の実態や支援活動を行う団体の情報を知りたいという声は性別を問わず多数。社会全体で気軽に話題にできる雰囲気や、性教育の充実を望む意見が相次いだ。生理用品のトイレの備品としての配置や減税の要望も。
 半面、40代以上の人を中心に生理の「貧困」という言葉に違和感や疑問を感じる声が一部上がった。「スマートフォンの料金を払えるのに生理用品が買えないとは考えられない」「その人の中で何を優先するかの問題。生理用品だけ特別に取り上げるのは疑問」などの見方だった。

生理や生理の貧困に関して寄せられた声

インタビュー

 ◎「口に出しにくい」当事者/「対策プロジェクト」メンバー 中山安彩美さん

 経済的な理由から生理用品を購入できない「生理の貧困」だと回答した約20人の多くは、匿名だった。「いかに口に出しにくいか」や「実名を出して訴える難しさ」を感じる。
 生理経験が無い人に「身の回りの人の生理期間に思うこと」を尋ねた問いで、不用意に生理の話題に触れることでセクハラにならないかという不安の声があった。背景に性教育の課題があるのではないか。以前は学校で女性だけ生理の指導を受け、男性は外でサッカーをするなどしていた。男性が触れてはいけないと思うのは当然。
 初経は10~15歳の間に訪れる。小学校など早いうちから性別に関係なく学び、互いの体を知ることが大切だ。性教育が世代や性別を問わず浸透し、心配や気遣いの言葉が自然に出るようになってほしい。
 回答者全体の約5割が「生理について知りたい」「分からない」と答えており、知識は十分に浸透していない。困ったときに相談できなかったり、相談して良いか分からなかったりすることにつながる。正しい情報を届け、気軽に相談できる保健室のような場所が街角にできるといい。

 【略歴】なかやま・あさみ 看護師。生理用品の無料配布などに取り組む「『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき」のメンバー。性の知識普及を目指す市民団体「長崎性教育コミュニティ アスター」の共同代表も務めている。

◎社会全体で捉え方変えて/活水女子大教授 石川由香里さん

 生理用品を購入できなかった経験を明かす人が一定いた一方、経済的な意味での「生理の貧困」の存在に疑問を感じる声もあったことが印象的だった。例えば、「スマホ代は払えるのに生理用品が買えないとは考えられない」という声があったが、限られたお金の使い道を考える時、スマートフォンが優先されるのは今の社会ではある意味当然。洋服などもそうだ。一方、生理は目に見えないために、生活の優先順位が下になってしまうのだろう。
 社会全体で生理の捉え方を変える時にきている。例えばセクハラから始まったハラスメントの概念は、妊産婦に対するマタハラをはじめ、今では多様な場面に広がり、啓発や相談窓口の設置も進んだ。生理で起こる心身の不調や社会的な問題も「甘え」としてではなく、配慮すべきこととして位置付ける必要がある。
 生理について口にすることが止められた時代もあったが、今は生理の貧困がこれだけ話題になっている。女性には、自分の問題を語り出してほしい。男性には、身近な人の生理からまず知ってほしい。
 
【略歴】いしかわ・ゆかり 活水女子大健康生活学部教授。専門は社会学、ジェンダー論。青少年の性行動や性意識などに関する研究にも携わっている。

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