千本木での植樹

 「あれが普賢さんだよ」。久しぶりに島原市まで家族でドライブした。18年前に島原支局を離れ、その後何度か訪れているが、普賢岳が見えてくるたびに懐かしさで胸がいっぱいになる▲千本木地区で今春卒業の高校生たちがクヌギなどの苗木を植樹したとの記事が、本紙地方版に載っていた。苗木は市民グループ「雲仙百年の森づくりの会」などが、自生する郷土種の種子を拾って育てた。噴火災害の火砕流、土石流などで荒れ果てた森の再生を願って23年前から続けている▲支局時代、植樹の様子を何度か取材した。ジャージー姿の高校生たちが荒地の斜面などで楽しげに植える姿は、傷付いた山体のすそ野をいたわっているようにも思えた。現支局長によると既に本格的な森になっているらしい▲初年度当時の高校生は既に40代。卒業記念としては今回が最後で、今後は草刈りなどを続けるとのこと▲植樹行事の終了は残念だが、多くの卒業生にとっては自分自身が苗木を植え、生き返らせた森。さらに歳月が流れてこの森を見渡したとき、仲間と植えた記憶がきっとよみがえる。そうやって森はそれぞれの人生の中にあり続ける▲島原の人々は甚大な被害を受けたにもかかわらず、多くが「普賢さん」などと親しみを込めて呼ぶ。山と人間の関係は不思議だなと思う。(貴)

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