開花発表

 この季節、同じことを慣例にする人もいらっしゃるとお察しする。自宅そばにある公園の一本を「標本木」に定め、つぼみを“定点観察”しているが、3連休のうちに三つ、四つ…と花を咲かせていた▲そろそろかな、という予想はほぼ的中して、長崎できのう、ソメイヨシノの開花が発表された。最も早かった昨年よりも8日遅く、平年よりも1日早い▲遠い昔の漢詩にある。〈年年歳歳、花相似(あいに)たり 歳歳年年、人同じからず〉。毎年、花は変わらず咲くけれど、人の境遇は移ろいやすい、と。はかなさを詠んでいるが、裏を返せば、人の世がどうあれ、花の季節は変わらず巡る▲〈去年とそっくり 同じ景色で/その間に月日が流れたことなど/うそのよう〉。石垣りんさんの詩「春」の一節だが、見渡せば「極限の人道危機」「コロナ禍、3度目の春」と世界も日本も春がすみが深い。うそのような、例年と同じ景色がよけいに際立つ▲詩はこう続く。〈季節は/巡り来るたびに取り出される/一枚の衣装で/過ぎれば/薄く薄く折りたたまれる〉。桜の時季が折りたたまれるのは、今年は早いのかどうか▲1週間から10日で満開になるという。今年もまた、大勢でにぎやかに眺める花見にはならなくても、人それぞれ〈一枚の衣装〉にしばらく心を休めたい。(徹)

© 株式会社長崎新聞社