「てぶくろ」の国

 寒い冬の日、おじいさんが散歩の途中に手袋を片方落とす。最初にやって来たのはネズミ。「わあ、暖かそう。これを僕のお家にしよう」。そこへぴょんぴょん通り掛かったカエルが「僕も入れてよ」「もちろんです。さあお入りなさい」▲僕も一緒に住ませてとウサギ、仲間に入れてちょうだいとキツネ。さらにオオカミとイノシシも加わり、最後はクマが「入れておくれよ」。「いや、さすがに無理」「試してみなきゃ分からないさ」…▲絵本の読み聞かせや、子どもたちの劇の題材としてご記憶の方もおられるだろう。落とし物の手袋が森の動物たちの暖かなシェアハウスになる「てぶくろ」はもともとウクライナの民話。ロシアの侵攻をきっかけに再注目されている▲捕食者と被捕食者の関係を超えた共同生活は、実は多様性の重要性を教えていて…とか、持ち主と飼い犬が所有権を強く主張したばかりに平和は破壊されて…などと漢字を連ねた注釈を試みるのは無粋の極みだろう▲ただ、ウクライナと私たちの“近さ”は改めて知っておきたい。ゼレンスキー大統領は昨日のオンライン演説で日本への謝意を何度も述べた▲侵攻開始から1カ月。ウクライナで積み重なり続ける危険と不安の日々を思う。胸を痛める以外にできることは-と自分に問い直す。(智)

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