助っ人たちが期待通りの活躍 得点力不足だった浦和が4得点

J1 浦和―磐田 後半、チーム4点目のゴールを決める浦和・モーベルグ(中央)=埼玉スタジアム

 優勝を狙ってダッシュするはずだったのに、6試合を終えた時点で勝ち点はわずかに4しかない。「絶対王者」川崎フロンターレを見事な戦いの末に2―0で破った2月12日のスーパーカップ。そのときサポーターに与えた期待感はどこにいってしまったのか。

 リカルド・ロドリゲス監督を迎えて2シーズン目。タイトル争いをもくろんでいた浦和レッズにとっては、このスタートでのつまずきは大きな誤算のはずだ。1試合平均1点強となる6試合で7失点が、まずいけない。しかも1試合平均1点に届かない6試合で5得点の貧攻だ。これでは勝ち点につながらない。

 3月19日のJ1第5節。ジュビロ磐田と対戦した浦和のメンバ―表を見ると、寂しい記録が載っていた。先発した11人で今季得点を記録しているのは江坂任だけだった。浦和にプラス材料があるとすれば、キャスパー・ユンカーが今季初めて先発メンバ―に名を連ねたこと。ここまで2試合に交代出場で30分ほどしか出ていない「点取り屋」が、どこまで復調しているかに注目が集まった。

 チームに「違い」を生み出す外国選手。かつては、明らかに日本選手とは異なるレベルのプレーを披露することが多かった。ところが、日本選手のレベルが急速に上がったことで「外国選手なら誰でも」という時代は過去のものになった。その意味でユンカーは、いまだに助っ人の要素を高いレベルで満たしている選手だ。それは磐田戦の立ち上がりで、すぐに明らかになった。

 難しいことを考える必要はない。ボールを奪ったら、まずトップを見る。最前線で浮遊するユンカーを探し、動きだしていたらその前方にパスを送ればいい。やることが単純化された浦和に迷いはなかった。

 相手に厳しくマークされているのに、ユンカーはDFを簡単に置き去りにするのがとてもうまい。もちろんスピードもあるのだが、一番は駆け引きだ。開始3分に縦パスで抜け出した場面はコントロールが乱れた。しかし、直後の7分には酒井宏樹の右サイドからのクロスを左足でダイレクトで合わせたシュート。GK三浦龍輝のファインセーブに遭ったが、この後の左CKが前半8分の先制点となる犬飼智也のヘディングシュートに結びついた。

 3バックの磐田との組み合わせもあるのだろう。ユンカーはサイド攻撃やスルーパスで不思議なほどフリーになって抜け出す。前半11分の今季初ゴールもそんな形からだった。

 磐田のボール処理が乱れ、左サイドでチェイスをかけた江坂がボールを奪取。その瞬間にユンカーはゴール前に走りだし、フリーになった。左サイドから送られてきたグラウンダーのクロス。右足でダイレクトに合わせたシュートは、GKに好ブロックされた。ところが、浮き上がったボールに対する反応がすごかった。クリアしようとするDF森岡陸より一瞬早く右足でボールを浮かせると、次のモーションでシュートを打てる空間に左足でコントロール。ボールがハーフバウンドして浮き上がったところを右足ボレーでゴールに送り込んだ。この3タッチが、3ステップを刻むなかで連続して行われた。まるでサーカスだった。

 前半14分に磐田の鈴木雄斗にゴールを許して2―1。ユンカーの切れ味は衰えない。前半22分には小泉佳穂の自陣からのスルーパスでGKと1対1のビッグチャンス。決まらなかったのは、神がかりのセーブを連発したGK三浦がすごかったからだ。

 前半はアレクサンダー・ショルツのPKも決まって3―1とリード。ユンカーはここでお役御免となった。放った4本のシュートは、すべてゴール枠内へ。得点になったのは1本だったが、シュートのうまさは多くのサポーターに満足感を与えたはずだ。

 エースストライカーがハーフタイムでピッチを去った。後半は退屈な展開になるかと思ったが、浦和は「新しい楽しみ」をさらに送り込んできた。新型コロナの入国制限のため、3月4日にやっと来日したダビド・モーベルグだ。スウェーデン代表歴を持つMFは、背番号「10」であることから、ゲームをつくる選手かと思っていた。ところが、後半から出場すると、いきなり仕掛けた。左足を武器とする完全なサイドアタッカーだった。

 日本デビューは衝撃的だった。出場から3分。後半3分に単独で右サイドから仕掛けるとDF3人の間に割って入り、左足の小さい振りでシュートをファーポスト際に送り込んだ。ドリブルからのフェイントは、欧州というよりも南米のそれに近い。欧州はボールを動かしながらフェイントを仕掛けることが多い。南米の選手はボールを動かさずにボディーフェイントでDFを手玉に取る。カズこと三浦知良の「またぎフェイント」が良い例だ。ボールを動かさなければ、それだけコントロールミスも減る。あとは体の位置を変えてシュートコースをつくり、打ち抜くだけ。モーベルグは日本に慣れれば、さらなる活躍が期待できるタレントだ。

 浦和は終わってみれば4ゴール。これまでの得点力不足がうそのような快勝だった。この日は外国選手3人がゴールのそろい踏み。レベルの高い日本選手がそろい、そこで「違い」を生み出す助っ人が存在感を示せば、試合内容は当たり前だが楽しくなる。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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