「一生の思い出」 新上五島・魚目中3年が花火大会企画 資金集め、地域の協力で実現

打ち上がった花火を見つめる生徒ら=新上五島町

 6分間、次々に打ち上げられた150発の花火が長崎県新上五島町の夜を彩った。「ありがとう、上五島」。海に向かって叫ぶ生徒たち。見守る大人たちは目を潤ませた。町立魚目中の3年生が企画し、資金集めに走り回って開催した12日の花火大会。それぞれの胸に鮮やかに焼き付いた。
 昨年春。「コロナ禍で花火大会が中止になってばかり。いっそのこと自分たちで開いたらどうだろう」。同校の南巧哉さん(15)が提案した。生徒の間でも賛否はあったが論議を重ね、「地域の人を元気づけることで恩返しにもなる」と意見がまとまった。南さんをリーダーにして「作戦」が動きだした。
 3年生(30人)は資金集めのため、オリジナルTシャツの販売を決定。デザインを考案し、昨年11月の町内イベントで初めて販売した。でも目標金額50万円には程遠い。ただ子どもたちの心意気に感銘を受け、寄付を申し出る人が現れ始めた。
 「中学生が花火大会を開く、費用捻出の商売をするなど、いかがなものか」と疑問の声も上がったが、江口和義校長は「子どもたちのチャレンジする気持ちをつぶしたくない。責任は取る」と生徒らを後押し。保護者も「上五島で花火を」実行委を立ち上げ、協賛依頼のため企業を回るなどしてサポートした。
 最終的に、Tシャツの売上金11万円、企業の協賛や個人の寄付金55万円の計66万円が集まり、目標額に達した。生徒らは余剰金でポケットティッシュを購入。感謝のメッセージカードを添えて町内の小学校や保育所などに配った。
 花火の打ち上げを請け負った唐津煙火(佐賀県)の木塚博治(ひろじ)社長も、生徒の熱意に心を動かされた。「子どもたちの笑顔やふるさとの思い出づくりにつながってくれるなら」と60万円で引き受け、金額以上の花火を用意した。

 そして迎えた花火大会当日の12日。浦桑郷浦桑堤防と榎津郷榎津港の2カ所同時に打ち上げられ、春の夜空に咲いた大輪の花に見物客から歓声が上がった。

2カ所で打ち上げられた花火=新上五島町

 榎津港に集まった3年生は岸壁に並んで見た。松野真利(まさとし)さんは「今日を目標に頑張ってきた。大人の力を借りながら無事にこぎつけてとてもうれしい」、平野朱真(しゅうま)さんは「自分たちにとっては壮大な計画だった。一生の思い出になる」と笑顔で話した。
 担任の橋本洋教諭は「彼らが自ら考え、動いたことで学校、保護者、地域の3者が一体となり、地域が活性化した。何より生徒ら自身の地元愛がさらに深まったように思う。心底感動した」と感無量の様子で話した。
 子どもたちも、大人たちも花火を見上げる顔は晴れやかに光り輝いていた。


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