横ばい

 終戦から10年後、発売されて間もない白黒テレビの値段は9万円ほどだった。この頃のテレビの広告コピーがある。〈一生に一度のお買い物です。…十二分にご吟味ください〉▲ずいぶん大げさな感じだが、総務省の調査記録によると、国家公務員の初任給が1万円足らずの時分だから、あながち言い過ぎでもない。この「国家公務員の初任給」は物価の上がり下がりを見る物差しによく使われ、第1次オイルショックの1973年には5万円台に急上昇した▲90年代に18万円台に乗ってからは横ばいになる。公務員に限らず、働く人々の給与水準はこの30年間、大きく変わっていない。物価もまた、他の先進国が上昇する中で、日本はデフレ、横ばいが続いた▲給料といい、物価といい、「ほぼ横ばい」に慣れているぶん、近頃の物価高は生活にも企業の経営にも、よけいに暗い影を落とす。ガソリンは本県で、1リットル当たりおおむね182円台という高値が続く▲食料品の一部も値上がりし、飲食店に製造業と、原材料費がぐんと増して頭を抱える業種が広がる。ウクライナ情勢が響き、影はますます濃くなるとみられる▲コロナ禍の出口という薄明かりが見えたのに…と物憂(ものう)い心持ちの人はきっと数多い。春の夜のともしび、「春灯(しゅんとう)」が今年はことの外、かすんでいる。(徹)

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