新型コロナウイルス禍が長崎県の観光産業に影を落として2年あまり。宿泊事業者は感染の波に翻弄(ほんろう)されてきた。いまだ収束は見通せない中、9月には西九州新幹線(武雄温泉-長崎)が開業。観光需要回復を見据え、事業者は苦境にあっても、受け入れ態勢を整え、反転攻勢に備えている。
長崎市内などの49軒が加盟する長崎旅館ホテル組合によると、コロナ禍2年間の客室稼働率は、感染状況が小康状態のときは好転、感染の波が来ると行動制限がかかり、急落を繰り返した。昨秋も修学旅行が戻り、11月はコロナ禍前の水準に回復したが、第6波の影響で1~3月は約7万9千人分の予約が消えた。
借り入れ増加
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)が約1100社に実施した調査によると、コロナ特別融資などで事業者の借り入れが増え、もともと抱えていた債務を含めた債務償還年数は平均17.5年。長崎旅館ホテル組合の塚島宏明理事(42)は「この2年を耐え忍んだ代償は非常に大きい」とみる。
そんな窮地でも、宿泊客が減ったからこそ繁忙期に取り組めなかったことに着手する動きがある。
ルークプラザホテル(同市江の浦町)は2月、従業員お薦めのスポットを紹介した市内の散策、夕食マップを計3万部製作。ホテルのほか県庁や掲載店に置いている。昨年12月から経理担当マネージャーの蓮輪博子さん(61)を中心に、まち歩きをして仕上げた。蓮輪さんは「空いた時間を活用し、観光需要が戻ったときのための準備ができた。地元の人も、おもてなしに役立ててほしい」と語る。
県の事業利用
利用したのは、コロナ後へ向けた取り組みに県が助成する「県観光地受入態勢ステップアップ事業」。県観光振興課によると、採択数は2020年度約200件、21年度約150件。当初は感染対策が多かったが、2年目は特産品を使った新メニューの開発、接客研修など具体的なものが採択された。
「産みの苦しみになっても高付加価値化の投資は必要」-。塚島理事が副社長を務める長崎スカイホテルチェーンのホテル長崎(同市立山2丁目)は和洋室への改修に踏み切った。団体客向けの和室の一部を個人客のニーズに対応するためだ。「この2年と同じことが繰り返されると業界が立ちゆかなくなる。今こそ政府にはコロナの出口戦略を示してほしい」。言葉に力を込めた。