MotoGPとは違った環境を楽しむロッシ。GTWCヨーロッパは「いちから学ぶ楽しさで充実」

 4月2~3日にイタリアのイモラ・サーキットで開催されたファナテック・GTワールドチャレンジ・ヨーロッパ(GTWCヨーロッパ)の開幕戦で、元MotoGPチャンピオンライダーのバレンティーノ・ロッシがシリーズデビューを飾った。

 ライダーとして長年世界トップカテゴリーの選手権へ参戦し続け、実に9度のシリーズチャンピオンを獲得した後に、2021年をもって惜しまれながらMotoGPを引退したロッシ。その後、GTレースへの転向を発表したイタリアを代表する大スターが、GT3の欧州選手権とも言えるGTWCヨーロッパで公式戦デビューを飾るということで、舞台となったイモラには多くのファンが詰めかけた。そのイモラで彼の新たなキャリア、GTドライバーとしての挑戦がスタートしている。

 レースウイークのドライバーブリーフィングの会場ではSROの創設者兼CEOのステファン・ラテルから、新たな仲間として紹介され、全ドライバーから歓迎の暖かい拍手を浴びたロッシは立ち上がってその拍手に応えていた。

 MotoGP現役時代の2012年には、GTワールドチャレンジの前身であるブランパン耐久シリーズのモンツァとニュルブルクリンク戦の2戦に、ケッセル・レーシングからプロ・アマクラスでのエントリーでゲスト参戦し、フェラーリ458イタリアGT3をドライブして確かな手応えを得ていた。その際にも将来的な四輪への活動転換を示唆していたが、この日、遂にその想いが現実のものとなった。

 デビューイヤーとなる今季はアウディの名門WRTに加入し、ニコ・ミューラーとフレデリック・バービシュのアウディ・ワークスドライバーたちとタッグを組み、アウディR8 LMS Evo IIにMotoGP時代と同じゼッケン46番を掲げて、GTWCヨーロッパのエンデュランスカップとスプリントカップの両シリーズに挑戦する。

 ヨーロッパでは依然として新型コロナウイルスの感染者数は多いものの、まん延防止措置策が緩和されておりGTWCヨーロッパではスタンドのほか、パドックも観客に開放され久々にファンの歓声に沸く賑やかなレースウイークとなった。

 前述のとおり、今戦はシーズンのオープニングイベントであると当時にロッシのデビュー戦となっている。それが彼の母国イタリアということもあり、サーキットは特徴的な蛍光イエローのグッズを身に着けたファンでごった返し、とくにパドックのロッシの所属するWRTのトランスポーター前や、ロッシがレースウイークに寝泊まりをしているモーターホームの前には常時大きな人だかりができ、『バーレ(ロッシの愛称)、バーレ、バーレ!』や『イル・ドットーレ(ドクター)』というコールが何度も起き、ひと目ロッシを近くで見ようと、ちびっ子から年配者まで大勢のファンが詰め掛けていた。

 それに対してロッシは、MotoGPではファンはパドックに入場する事ができないがGTWCヨーロッパではそれが叶うとあり、可能な限りファンの前に姿を現しサインや記念撮影に応じて、笑顔でファンサービスに興じていた。なお、サーキット内ではロッシショップも出店しており、彼のグッズが充実していた。

 今季からプロ、シルバー、プロ・アマにゴールドが加わり4クラスの混走、エンデュランスカップでは全52台のGT3カーが参戦するマンモス状態のGTWCヨーロッパ。その中でフリープラクティス総合6番手と幸先のよい出だしとなった46号車アウディだったが、決勝日に行われた予選ではQ3に登場したロッシが37番手と沈む。しかし、予選は3名の平均タイムによりグリッドが決まるため、決勝は15番手からのスタートとなった。

■「トラフィックの多さやスピードの難しさを感じる」とロッシ

お馴染みのナンバー「46」を掲げるチームWRTのアウディR8 LMS Evo II
グッズを手に応援にやってきたロッシファン
母国のヒーローを一目見ようと多くのファンがイモラ・サーキットに詰めかけた

 この前日、土曜のプレ予選の後に行われたメディアのラウンドテーブルで、ロッシは「事前に数多くのテストを重ねていたが、実戦では52台ものGT3マシンが一斉に走行するがゆえにトラフィックの多さやスピードの難しさを感じる」と素直な心境を語った。それらの状況も踏まえてファイトに溢れ、エンジョイしているようだ。また、彼はチームメイトと協力して戦うレースを学ぶことを楽しんでいる。

「MotoGPでは参戦するライダー全員が同じレベルの戦いだが、GTWCヨーロッパではさまざまなレベルのドライバーが混走するうえ、レースでは1台のマシンに携わるクルーの人数も多く、3名一組で走る耐久レースでは3名のドライバーの意見やドライブスタイルを考慮したセットアップの最良ポイントの調整、走行台数の多さ、タイヤの使い方などMotoGPとは違った環境という意味で、よりコンペティティブだ」とコメントし、長年培ったモーターサイクルのレースから離れ、いちから学ぶ楽しさで充実していると笑顔を見せた。

■ピットを行き過ぎるアクシデントで大きくタイムロス

 4月に入ったものの、気温がぐっと下がり非常に寒いレースウイークとなった開幕戦の決勝日、サーキットの周辺は公園に囲まれているため、多くの立ち見の観客が訪れ、小さな町の周辺道路は渋滞が続いた。

 そんななかスタートを迎えた第1戦イモラでは、ミューラーが46号車アウディのスタートドライバーを担った。第2ドライバーを務めたロッシは、デビュー戦前には欧州内のさまざまなサーキットでテストを重ね、チームメイトたちからアドバイスを貰いながら充分な準備を積んで挑んだデビュー戦だったが、フルコースイエロー(FCY)とセーフティカーランが長く続いたことでピットストップの戦略が大きく乱れることに。

 ロッシはFCY中にピットインをすることになったが、直前になってチームが46号車の止まるべきボックス位置を同チーム内のひとつ手前に変更したことにより、従来のピットへ入ろうとしたロッシが戸惑い、通り過ぎてしまった。

 ファストレーンで一旦は停止したマシンをメカニックが追いかけたが、後続車が来たためチームはロッシのR8 LMSを引き戻すことができず。彼はさらに1ラップを走行してから再度ピットインしなければならず、大きくタイムを失ってしまう。そんなアクシデントもあり必ずしも思いどおりにはならなかったデビューレースだったが、多くのファンやレース関係者からの盛大な応援を受けて無事に完走を果たしてみせた。

 自身のスティントを終えてマシンから降りたロッシには、パートナーのフランチェスカ-ソフィア・ノヴェロさんが駆け寄りキスを交わすなどアツアツぶりが伺え、ロッシの活躍に瞳を輝かせて見届けた。

 イモラでのGTWCヨーロッパデビュー戦の1カ月前にはフランチェスカ-ソフィアさんとの間に長女のジュリエッタちゃんが誕生したばかりで幸せに満ち溢れているロッシは、MotoGPで世界中を飛び回っていた生活から、家族との時間を優先にしたいと語った他、自身の出身地で実家のあるタヴリア村に所有するオフロードコースで後進の指導にも力を注いでいる。

 ロッシが参戦する次戦第2戦は、4月30日~5月1日にイギリスのブランズハッチで開催される。同イベントはGTWCヨーロッパのスプリントカップ初戦となり耐久シリーズと同様に、アウディ・ワークスドライバーのバービシュとタッグを組む予定だ。

チームメイトのピットインを待つバレンティーノ・ロッシ
ピットボックスを通り過ぎてしまったロッシ駆る46号車アウディR8 LMS Evo II
ピットのモニターでチームメイトの走りを見つめるバレンティーノ・ロッシ

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