困っている人を助けるのに理由は必要ない 事業所代表の思い アンダーグラウンド ルポ 佐世保の今・3

「誰かがやらなければならない。それが俺たちの役目」と話す福田代表=佐世保市内

 携帯が鳴りやまない。電話の相手は市職員、警察官、保護観察官…。それが事業所「Mind Factory」の代表、福田健誠(かつあき)(55)の日常だ。だが、外部から信用を得るのは簡単なことではなかった。
 長崎県佐世保市の出身。団体職員を経て、知人と車検屋を起業するが、知人にだまされて3千万円の借金を背負わされた。返済のため、昼夜問わずに働いたが、30歳のときに脳梗塞で倒れた。バセドー病も患い、3年間、入退院を繰り返した。働くことができず、社会に出るのが怖くなった。
 勇気を振り絞り、溶接関係の技術を生かし期間限定で県内の専門校の講師になることができた。1年延長して講師を務め、刑務所の法務技官に転職した。
 刑務所で働き始めると、受刑者の中には、障害特性のある人たちがいることに気付いた。「こんな所に来る前に、阻止できたらいいのに…」。モヤモヤした気持ちが湧き上がった。そんなとき、生活保護受給者の就労準備支援事業を県内で初めて実施する法人がスタッフを募集していた。1年務めた法務技官を辞め、法人に就職した。
 法人で就労準備支援を受けるのは25人。皆、あいさつもせず、下を向き、ため息ばかりつく。8~9割が発達障害やうつ、適応障害を持っていた。さらに、多くの人に犯罪歴があった。
 一体、この人たちの何が悪いのか-。原因を改善せずそのまま放置すると、社会復帰するのはますます難しくなる。「何とかせんば」。福田の挑戦はこの時から始まった。
 25人の中でそれぞれコミュニティーができたので、草刈り作業をさせてみた。すると、驚くほど完璧にこなした。依頼者からお礼を言われ、自分たちで役割を決め、お金をためて道具を買うようになった。何回も作業を繰り返すと、全く話さなかった人が話すようになり、全く笑わなかった人が笑うようになった。草刈り作業は、彼らが社会に対して初めて価値を残せた出来事だった。
 この経験を踏まえ、福田は2015年に独立し、現在の事業所をつくった。警察でも行政でも法律やシステムでも、どうにもできない人たちを可能な限り受け入れている。相談は24時間対応し、必要があれば現場に駆けつける。
 一方、「貧困ビジネスではないか」「福祉の分野なのに警察と連携するのはおかしい」-。そう後ろ指をさされることもあった。だが、困っている人を助けるのに、理由は必要なのだろうか。「誰かがやらなければならない。それが俺たちの役目だ」。あくまで前向きな福田の姿勢に協力の輪が広がってきた。
=敬称略、連載4へ続く=


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