「誰の何のための戦争か」 佐世保出身・オランダ在住女性 欧州、攻撃に危機感

「誰も戦争を望んでいない」と話すヒームストラさん=佐世保市内

 ロシアのウクライナ侵攻は、欧州に住む人たちに過酷な現実を突き付けた。「誰の、何のための戦争なのでしょうか。子どもたちに、戦争が始まったと言わねばならない状況に、心底悲しくなりました」-。オランダ在住のフラワーアーティスト、ヒームストラ舞さん(46)は、一時帰国した長崎県佐世保市重尾町の実家で吐き出すように話した。
 同市出身のヒームストラさんは、オランダ人の夫と2人の子どもと共に2016年、オランダへ移住。ロシアのウクライナ侵攻が続く中、3月下旬に両親の介護のため1人で帰国した彼女に話を聞いた。
 2月24日。ウクライナ侵攻が突然始まったこの日、オランダの空気は一気に変わった。「コロナの話題は一瞬で消え、自国も攻撃を受けるかもしれないという危機感と、ウクライナ支援で一色になった」という。テレビで流れる、混乱による渋滞で動かない車、そんな車を捨てて隣国に歩いて逃げる人々-。ウクライナの惨劇を信じられないという思いで見つめた。
 ヒームストラさん一家はオランダ最大の国際空港の近くに住んでいるため、侵攻を受けるかもしれないという危機感も強かった。何かあった場合、どうするのか家族で話し合った。「車は使えなくなるだろうから、歩かなければいけない。歩いて東方の義母の家に逃げよう」-。変動する状況に即対応できるよう日々シミュレーションをした。
 ヒームストラさんによると、オランダは5万人のウクライナ避難民を受け入れる計画で、3月28日現在、1万8千人以上が入国している。ヒームストラさんもSNSで知り合ったウクライナ人女性に受け入れを申し出たが、女性は「目の前の高齢者を励ますために残る」と断ったという。
 そんな中、佐世保の両親に介護が必要になり、帰らなければならなくなった。飛行機はロシア上空を通るルートが運休。中東上空を通るルートを使った。
 日本に到着した後も「オランダで何かあった時にすぐ帰れるのか」、そんな不安が常につきまとっている。「残してきた家族を思うと心配だから、夫や友人に毎日オランダの状況を聞いている。何かあったら、自分ができることを、すぐにやらなければ。一瞬の判断で生死が分かれるから」と語気を強める。
 ヒームストラさんは今月下旬にオランダに帰る予定だ。「混乱する世の中だからこそ、目の前の人を大切にしたい。皆つながっているから、遠回りでも結局はそれが、平和につながるのではないでしょうか」。最後にこう言った。


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