【激論:規制改革と薬局vol.2】I&H 取締役 岩崎英毅氏「薬剤師の聖域はどこなのか」/自社では“国民が必要とするところに開局”の原則に立ち返り出店する 

【2022.04.21配信】座談会参加者■プライマリーファーマシー 代表 山村真一氏<独立系薬局経営者の立場から>■I&H; 取締役 インキュベーション事業本部長 岩崎英毅氏<大手調剤チェーン企業の立場から>■中部薬品 代表取締役専務 医療本部長 佐口弥氏<ドラッグストア企業の立場から>■帝京平成大学薬学部 教授 亀井美和子氏<アカデミアの立場から>■カケハシ 代表取締役社長 中尾豊氏<システム企業の立場から>【全5回】

岩崎 I&H取締役の岩崎と申します。父が初代社長で、長男が社長をしており、私が次男ということでこの役職についております。やはり私も調剤の動向が気になっています。調剤のアウトソースについては、敷地内薬局と同じようなことにつながるのではないかと危惧しています。病院の調剤を大手薬局企業が請け負うような形です。良いか悪いかと言えば、私は良くないと思います。

調剤の動向、将来に関して言えば、今、危惧することが多くあるのが実情です。今年の4月から当社には100人以上の薬剤師が入社しました。この24歳から26歳という、ホワイトキャンバスに何を描こうかなと期待を抱いている若い社員に対して、50年後にも明るい未来を描いてあげなければいけない。そう考えると、率直に申し上げて、いま薬局、薬剤師業界には不安材料が山積していると言えるでしょう。

福島県のある地域に、ドクターはいるけれども薬剤師はいない無薬局地域があります。私は薬局が国民に必要だと思っていただける状況をなくしてはいけないと強く思っています。この思いから、当社はこの地域への出店を決めました。

今、薬局に対して、未病の役割や服薬フォローの対人業務拡充などのテーマが議論されています。それももちろん重要な課題ではありますが、そもそも今、薬局が必要とされている場所に薬局があるということの方が大切ではないでしょうか。私は赤字でもいいので無薬局地域に出店していきたいと考えています。

その無薬局地域の人口では薬局は成り立たないから無理ですね、というなら、なぜドクターはいるのか。ドクターは必要だけれども薬局は、「まぁいいか」と思われたら、それは薬局が必要ないということになります。ところが視察をすると、薬をもらうだけなのに車で30分もかかる隣町に行かれているということが分かりました。その地域にお住まいの方から「薬局をなんとか作ってもらえませんか」と言われたんですね。薬局は6万軒もいらない等と、そのような声も聞こえる中で、「薬局が必要だ」と言われたのは私は初めてで、涙が出そうになりました。これに応えることが、今後50年、新人薬剤師が薬剤師として活躍できる材料になると思っています。

最近ですと、離島等は看護師が調剤を行ってよいという特例が通りました。
(編集部注:3月23日の厚労省通知で極めて限定的にPTPシート等での供給を認めたもの。関連記事https://www.dgs-on-line.com/articles/1495

これこそ反対しなければいけなかったことだと思います。調剤は死守しなければならないのに守れなかった。それはなぜでしょうか。福島県のケースと同様、村に“薬局がない”から、“薬剤師がいない”からです。看護師は“いる”から“行える”んです。細かい状況は違うかもしれませんが、全体像で言えばそういうことです。薬剤師がいれば、むしろ看護師の仕事を薬剤師にシェアしてください、と言えたかもしれません。災害時にドクターや看護師が来られないなら、薬剤師が行いましょうかと、逆の特例にできたかもしれません。

海外では1000人住民がいれば1薬局は作りなさいといった行政命令があると聞きますが、日本にはありません。ではどうするかと考えたら、まずは“薬局を必要としている地域”に“行ける薬局・薬剤師”が1人でも行けばよいのではないでしょうか。

そういったことも踏まえて、私は薬剤師の聖域はどこかということを議論すべきだと思います。私たち一人一人が考えなければいけない。絶対に守るべきものを作っておかなければ侵食されてしまいます。ドクターはドクターで「ここは絶対に手放さない」というものを必ず持っています。では薬剤師はどこを守るんだということを議論できれば嬉しいですね。

――無薬局地域に関しては、日本薬剤師会でも「地域医薬品提供計画」を政策提言に入れ、対策を急いでいるとは聞いています。

岩崎 もちろん、そういった取り組みに期待しています。ただ、その間にも時間は流れていってしまう。実際に困っている方々がいて、特例も通っていく。私は今、自分たちにできることを一つずつ取り組んでいきたいと考えているのです。
<vol.3に続く>

I&H 取締役 インキュベーション事業本部 岩崎英毅氏
■いわさき・ひでき
調剤薬局を経営する両親のもとに次男として生まれる。
大学卒業後に入社した第一三共株式会社で約3年半勤務した後、両親の経営する株式会社阪神調剤薬局へ入社。2012年12月に取締役に就任。
その後、吸収合併を経て、2019年にI&H株式会社に社名変更。現在は取締役とインキュベーション事業本部長を兼任し、グループ会社である株式会社エクスメディカルと、グローバル・エイチ株式会社の代表取締役も務めている。薬剤師。

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