とんねる横丁

 佐世保市に「とんねる横丁」と呼ばれる一角がある。防空壕(ごう)や戦後掘削した穴を利用した店が連なるのが名前の由来だ▲佐世保市中心部は1945年の空襲で焼け野原となった。焼け出された人たちの中には防空壕を住居や店舗として使った人もいた。それが現在につながっている▲そのとんねる横丁に隣接する戸尾市場に本田蒲鉾(かまぼこ)店はあった。この店の裏にも防空壕があり、そこで揚げたかまぼこ天ぷらが名物だった▲3代目の本田富男さん(68)と妻の容子さん(69)は「元気なうちに終わらせよう」と3月末での閉店を決意。閉店することが分かると、いつも以上に多くの客が訪れて、行列までできた。冷凍して、できるだけ長い間食べていたいと数十枚買っていく人もいたという▲店の前の支柱には「長い間本当にお疲れさまでした!本田のかまぼこはみんなの元気の源でした」と書かれた紙がくくりつけてあった。花を持ってきてくれた人もいて、「いい幕引きができました」と容子さんは感慨深げだった▲4月に入り店の前を通ると、店内から機材が次々と運び出されていた。中をのぞくと、がらんとして、とても広く感じた。店跡がどうなるかは決まっていないという。再び市民に親しまれる店に引き継がれ、防空壕を使った横丁や市場の歴史をつないでいってほしい。(豊)


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