育休の前例がなく収入減が不安な30代夫婦「妻が正社員でなくなっても子育てできる?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、30代の共働き夫婦。子どもを希望していますが、妻の会社では育休取得の前例がなく、出産すると正社員を諦めないといけない可能性が高いといいます。子どもができて妻が正社員でなくなった場合、家計は大丈夫でしょうか? FPの氏家祥美氏がお答えします。


今の家計で子どもができたとしても大丈夫かを知りたいです。子どもは1人希望しています。

夫はアパレル関係の会社で、年収450万円(ただし、コロナで売上が減り、減給される可能性あり)、私も会社は別ですがアパレル関係で、年収は400万円。

今は子どもがいないので、お小遣いは夫6万円、私5万円と、自由に使っています。貯金は月12 万円、うち現金は4万円、投資8万円 (うち6万6,000円はつみたてNISA)です。

今はお金に困っていませんが、将来子どもができたとき、会社独自の育休制度がなく、育休実績もないので、年収が単純に半分になるので不安です(育休が終わるとバイトとして再雇用の可能性大) 。またさらに、互いの会社に退職金も期待できません。

祖母の生前贈与でもらった1,300万円はありますが、将来のためにどれだけ貯金すべきかもわかりません。

よろしくお願い致します。

【相談者プロフィール】

・女性、30歳、会社員 ・夫:29歳、会社員

・住居の形態:賃貸(近畿地方)

・毎月の世帯の手取り金額:45万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:100万円

・毎月の世帯の支出の目安:約32万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:13万3,000円

・食費:4万円

・水道光熱費:2万円

・通信費:1万円

・お小遣い:11万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:12万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:60万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):400万円(別途生前贈与で1,300万円)

・現在の投資総額:100万円

氏家:近い将来「子どもを持ちたい」と思うけれど、育休の前例がなく共働きが続けられるかわからない、夫の収入もコロナで減少傾向ということで、いろいろご不安だと思います。そんなお悩みにこの3つの視点でお答えしていきます。

・現在の家計の状況
・出産子育ての制度と前例がない場合の乗り越え方
・将来の家計とライフプラン

共働きの現在は貯蓄率30%超の貯蓄体質

まずは、現在の家計の状況からみていきましょう。現在、ご相談者さんが30歳、夫が29歳で、お二人ともアパレルのお仕事についています。年収は、ご相談者さんが400万円、夫が450万円あります。税込み年収だとわかりにくいので手取りに注目すると、手取り月収がお二人で45万円、手取りボーナスが年間100万円のため、年間の手取り収入は45万円×12+100万円=640万円になります。

続いて支出です。1カ月の支出が32万円、ボーナスからの支出が40万円のため、年間の支出は32万円×12カ月+40万円=424万円になります。

貯蓄や投資は、毎月12万円(預金4万円、投資8万円)、ボーナスから60万円がほぼ決まってできている金額です。年間では、12万円×12カ月+60万円=204万円になります。

【手取り年収】45万円×12カ月+100万円=640万円
【支出】32万円×12カ月+40万円=424万円
【貯蓄・投資】12万円×12カ月+60万円=204万円

共働きを続けている現在は、手取り年収の30%以上を貯蓄や投資に回せている貯蓄体質な家計となっています。

産休・育休制度をおさらい。まずは正しい知識を

ご相談者さんの心配ごとは、ご夫婦の収入減少でした。ご相談者さんについては、いまのところ問題はないものの、「子どもができたとき、会社独自の育休制度がなく、育休実績もないので、年収が単純に半分になるので不安」「育休が終わるとバイトとして再雇用の可能性大」ということでしたね。それにコロナの影響による夫の収入減少も気になっています。

まずはご相談者さんの不安を解消すべく、出産子育てに関する先に国の制度について解説をさせてください。

働く女性は出産予定日の前後に、産前産後休暇(いわゆる産休)を取得できます。出産予定日前6週間、出産後8週間になります。産休が終わると、そのまま育児休業に入ります。産休は子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで取得できることになっていて、保育園に入れない場合などは、1年6カ月まで延長が可能です。それでも保育園に入れない場合には、2年まで延長できることになっています。保育園に入所するタイミングや保育環境が整っていて早く職場に戻りたいなどの場合は、育児休業期間を短縮することも可能です。

産休中は健康保険から「出産手当金」が健康保険から支払われます。金額は1日当たり給与の三分の二を産休の日数分もらえます。育休中は雇用保険から育児休業給付金が支払われます。金額は、最初の6カ月間が給与の67%、それ以降は50%となっています。これらの休業中は税金や社会保険料の負担はありません(前年の所得に対する住民税は支払います)。会社にとっても給料を支払う必要はありません。

産休・育休は誰でも取得する権利がある

ご相談者さんは、会社独自の育休制度がないとおっしゃっていますが、ここまでは国が定めている制度ですので、前例がなくても取得する権利があります。また、男女雇用機会均等法では、出産を理由に女性社員を解雇することや、正社員からパートなどへ転換させることを禁じています。

育休取得の前例がない会社の場合、会社や上司がこうした知識を持ち合わせていない場合があります。また、上司が子どもや女性社員の体を「案じて」、配置転換や退職を勧めてくる場合もあるかもしれません。自分を守るためにも、まずは正しい制度の知識を持ちましょう。そして、ご自身と同様に、会社や上司も不安を抱えていることを理解して、ていねいにコミュニケーションをとっていきましょう。子どもも仕事も手放さない道を探ってみてください。

なお、育児休業は女性だけでなく男性も取得可能です。以前に比べて男性も育児休業を取りやすいように制度改正がなされているので、夫とも協力し合いましょう。

子育てに数年専念して、パートで職場復帰した場合の家計

制度が整っていても、本人の希望や状況によってしばらく子育てに専念したくなることもあるかもしれません。そこで、出産をしてから数年間は子育てに専念をして、その後パートとして職場復帰をした場合の家計についても考えておきましょう。

ご相談者さんが家事子育てに専念した場合、その間は、夫の収入だけで生活することになります。現在、税込み年収はご相談者さんが400万円、夫が450万円ですから、収入比でみると47%と53%になります。お二人の手取り年収は合計640万円ですから、これに53%をかけた339万円が夫の手取りと考えましょう。

一方、現在の生活費は年間424万円でしたから、夫の片働きになると、手取り収入339万円-生活費424万円=-85万円。年間85万円の赤字になります。今できている貯蓄や投資もできなくなります。ご相談者さんがいずれパートに出て年間100万円程度稼ぐようになると、貯蓄はほとんどできないものの、赤字がなくなり生活を維持できるようになります。

なお、お子さんが生まれるとおむつ代やミルク代、洋服代などの養育費がかかりますが、子ども手当も支払われます。また、子どもが3歳から5歳のうちは、幼児教育の無償化制度もありますし、公立の小中学校であれば授業料もかかりません。現在29歳、30歳と若いご夫婦ですから収入には伸びしろがあります。世の中の状況が落ち着いていけば今よりも収入は上がっていくでしょう。

パートを継続なら教育費や住居費は今ある貯蓄を取り崩すことに

ここからは長期的な視点でライフプランを考えていきます。今後の家計で大きな支出となるのは、教育費と住居費です。離職期間を経てパートとして再就職をする場合、ほとんど貯蓄ができないので、住宅を買う場合には、今ある貯蓄から住宅の頭金を出すことになります。教育費は、塾代などは日々の家計からねん出し、教育費の積み立てもしていきますが、それでも大学資金が足りない場合は、やはり貯蓄を取り崩して出すことになります。

現在お持ちの金融資産は以下になります。

・貯蓄:400万円
・投資:100万円
・生前贈与:1,300万円
【合計】1,800万円

現在、金融資産は1,800万円ありますが、例えば、住宅購入時に頭金として800万円、大学の教育資金として500万円使うとすると、生前贈与を受けた1,300万円はあっという間になくなります。今後、貯蓄が増やせないとなると、退職金がないお二人の場合、老後資金が不安になるでしょう。

老後資金を貯める2つの道

老後資金を貯める方法には、大きく2つの道があります。1つめは、子育て終了後の「貯め時」を有効活用すること。ご夫婦は現在29歳と30歳ですから、2〜3年以内に出産すれば、子どもが大学を卒業した後でも50代前半です。65歳まで働くとしたら、子育て後に10年以上働ける期間があるので、ここで老後資金を一気に貯めることができるでしょう。

2つめは、やはり、出産後も正社員共働きを続けることです。育休の前例のなさに諦めることなく、当然の権利として仕事を続ける方法を模索しましょう。もしもそれを望まない場合には、パートから早めに正社員として復職、転職する方法もあります。出産後も正社員として共働きでいられれば、貯蓄や投資が再びできるようになり、老後資金を貯められるようになります。

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