老後破綻の危機に気づかず車購入を考える43歳独身会社員。40年ローンが引き金に

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、43歳会社員の女性。購入したマンションに一人暮らしの相談者。住宅ローンの負担を重く感じながらも車の購入を検討しており、さらにローンを増やすことに不安を感じています。ところが家計には様々な問題点が…。FP秋山芳生氏がお答えします。


43歳会社員(一人暮らし)です。離婚してから自由にお金を使ってきたので、どこを節約すればいいのか分かりません。

毎月赤字ですが、今年中に車を買いたいと思っています。しかし、住宅ローン(返済年数38年、残債4,150万円)に加え、さらにローンを組むことになり、駐車場代などの維持費で毎月の返済が増え、さらに赤字になってしまうかもと心配です。

マンション購入当初は、10年ごとに1,000万円を繰上げ返済して21〜22年でローン完済する予定でしたが、払い続けられるのか、さらに貯金して老後資金は準備できるのか心配です。

貯金は800万円ほどありますが、そのうち200万円は両親に何かあった時に使うために別で貯金しているため、今後も使いたくないと思っています。

以前勤めていた会社でiDeCoに加入させられましたが、仕組みがよく分からず、結局退職金も預けたままになっており、毎月の管理費が引かれるのみで、この10年間減り続けています。このiDeCoの取り扱いをどうしたらいいのかも分かりません。しかし、できれば今後、NISAなどもやってみたいと思っていますが、やはり仕組みややり方が分かりません。相談できる人もおらず、今後について不安です。

【相談者プロフィール】

・女性、43歳、会社員(離婚、子供なし)

・住居の形態:持ち家(マンション、中国地方)

・毎月の世帯の手取り金額:30万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:110万円

・毎月の世帯の支出の目安:27万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:8万2,000円

・食費:3万円

・水道光熱費:1万8,000円

・保険料:3万2,000円

・通信費:1万円

・お小遣い:7万円

・その他:管理費、修繕積立費1万6,000円、住宅ローンボーナス返済時23万円(年2回) 、スポーツジム1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:5万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:100万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):800万円(うち200万円は両親用)

・現在の負債総額:4,150万円(住宅ローン:物件購入額4,100万円、借入額4,310万円、金利0.65% 、残り返済年数38年)

・退職金:あり。金額不明

秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。今回の相談者様は、43歳の独身女性で「毎月赤字」が続いているとのこと。その状況で、マンションのローンがある上に、自動車のローン購入を考えています。また、以前勤めていた会社で確定拠出年金を積み立てていましたが、退職した後は放置している状態です。残念ながら、お金を貯めて増やしていくセオリーとは異なる選択をしています。家計の状況を確認しながら一つ一つアドバイスしていきたいと思います。

住宅費用が支出の30%以上を占め、家計を圧迫

まず家計の全体像を見ていきましょう。手取り収入が30万円/月、ボーナスが110万円/年なので、合計で年470万円の手取りがあります。一人暮らしをするには十分ですね。

支出は27万円/月で、貯蓄目標が5万円ということなので、予定通り貯蓄は貯まっていないようですが、ただ、それでも3万円は貯蓄ができており、赤字になっているわけではありませんので、想定通り貯蓄ができないことを「毎月赤字」というのは誤解を招きますね。

住居費は住宅ローンの返済額が8万2,000円と、管理費・修繕費で1万6,000円がかかっているので、合計9万8,000円になります。手取り収入30万円の30%以上を住宅費に払っていることになるので、かなり高い状態です。これに固定資産税が加わるので、実際にはもっと高い比率になります。住宅費は支払いを止めることのできない固定費ですので、他の支出を抑えていかないと貯蓄が貯まらず苦しくなる可能性が高いでしょう。また、管理費・修繕費は時間が経つと負担が増えていく可能性が高く、住宅ローンは変動金利で借りているので金利も上がる可能性もあります。将来さらに住宅費にかかることを念頭において、対策を練る必要がありそうです。

今の家に住んでいたら老後破綻の危険が!

残りの返済年数が38年となっているので、おそらく約2年前に40年ローンを組んだのでしょう。最近では35年を最大期間とせず、40年ローンを提供する銀行も増えてきました。しかし、多くの方にとって40年は長すぎると思います。40年かけなければ返済計画が立てられない場合、その物件価格のローンを組むことが危険だという目安とも言えます。

繰り上げ返済しなければ返済完了は80歳前後になるので、老後の支払いはかなり厳しいものになるでしょう。相談文から、10年で1,000万円の繰り上げ返済を考えているようですが、そのためには年に100万円(毎月8万3,400円)の貯蓄が必要になります。現在実質的に3万円の貯蓄しかできていないので、5万円以上の乖離があります。

ボーナス110万円を繰り上げ返済の資金に充当できますが、住宅ローンのボーナス払いも23万円が2回あり、110万円のボーナスから46万円を引くと64万円しか残りません。これだと、月々3万円の貯蓄と合わせてギリギリ100万円ということになります。この先20年以上貯蓄ができない場合、老後資金がかなり厳しくなります。つまり、このままでは、老後破綻の引き金になる可能性の高い家に住んでいることになります。この状態から脱却するためには、マンションを売却して借金を返済するか、他の支出を大きく見直してリカバリーする必要があります。

マンションを売却する場合は、借金の残債に対して売却額が上回っているかどうかが重要です。情報を集めるためにも、複数の不動産仲介業と連携をとり、適正な売却価格を見極めるようにしましょう。

保険料は大きな見直しができるポイント

他の支出をみていくと、気になるのは保険料とお小遣いです。

保険料は3万2,000円で、かなり高い状態です。仮に医療保険3,000円、死亡保険3,000円、貯蓄型保険2万6,000円を支払っているとします。日本の社会保障制度は手厚くなっており、現役世代の医療費負担は3割であることに加え、高額療養費制度もあり、万が一医療費が高額になった場合も個人の負担は限定されています。また、健康保険組合によっては、付加給付により医療費の1カ月あたりの負担が高額療養費制度よりさらに低く設定されている場合もあります。さらに貯蓄も800万円あるので、民間の医療保険は不要と言えます。

また死亡保険も、特に誰かを扶養していなければ不要です。さらに貯蓄型の保険に入っている場合は、基本的に解約をお勧めします。貯蓄型保険は、死亡時の保障に加え、掛け金が最終的には返ってくるので一見お得な金融商品に感じます。しかしその実は、「保障の薄い保険」と「手数料の高い投資信託」の抱き合わせセット商品です。資産形成をするのであれば、手数料の低い投資信託を選ぶべきですし、保障が必要であれば、掛け捨てで保障が手厚いものを選ぶほうがよいでしょう。つまり、今契約している保険は全て解約してよいと思います。特にドル建ての終身保険や変額保険の場合、円安時期は返戻金が多くなり、解約のタイミングとしてはよい時期と言えます。

お小遣いは詳細を記録して管理をしっかり

お小遣いの7万円については、習い事や衣服美容、趣味娯楽などが含まれていると思います。家計簿をつけて、費目ごとに支出を分けて、何にいくら使っているかしっかり考えるとよいでしょう。スポーツジムの費用も合わせて、費目ごとに予算をたててその中でやりくりをしたほうがよいですね。

現時点では、車の購入は無謀

現状では車を購入するのは無謀と言えるでしょう。確かに、車を持つことで行動範囲も広がり、人生が豊かになります。ただし、ガソリン代、駐車場代、自動車保険、税金、車検、各種メンテナンス費用を考えると、出費が大幅に上がってしまいます。住宅を売却し、保険を解約してキャッシュフローが改善していれば自動車購入も考えられますが、それでもかなり家計は苦しくなるでしょう。レンタカーやカーシェアリング等を利用すれば、利用料だけで車を使えるのでおすすめです。

iDeCoは放置するのはもったいない

最後に投資についてですが、会社の確定拠出年金に加入していたけれど、退職時に放置し、運用指示を出せていない状態のようです。運用指示をせず、放置した状態で6カ月をすぎると、国民年金基金連合会に移管されてしまう可能性があります。その状態からさらに4カ月が過ぎると、運用されていないのに手数料は52円/月ほどかかってしまうので早めに運用したほうがよいでしょう。

知らないことを放置せずにお金に関する知識の収集を

投資にまつわる用語(信託報酬、想定利回り)や考え方(複利、ドルコスト平均法、グローバル分散投資)は、日常生活では聞きなれない言葉なのでとっつきにくいかもしれませんが、「わからない」と思考停止させないことも重要です。

iDeCoの始め方やつみたてNISAの積立の仕方や商品選定の考え方なども、最近ではネットの記事やYouTubeなどでもかなり詳しく説明されています。不明点は放置せず、記事や動画を複数見比べて情報を集めて、一歩一歩学んでいけば、誰でも理解できるようになります。まずは詳しい人に聞いてみたり、記事や動画を検索したりして、少しずつ理解していきましょう。

また、最初は有料のファイナンシャルプランナー(FP)に相談するなど、客観的な意見を取り入れるのも手です。ただし、FPに相談する場合も、すぐに全面的に信頼するのは危険です。FPが売りたい商品を説明するために恐怖心を煽られたり、情報の非対称性から不必要に高い保険や手数料の高い投資信託商品を売られたりしないように注意が必要です。

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という言葉もあります。知らないことを放置せず、お金について関心を持ったら調べて動いてみることが重要です。以上、参考になれば幸いです。

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