未成年の子がいる親・不動産持ち・経営者。20代でも遺言書を作成しておきたい3つのパターン

遺言書の作成は、終活のひとつとしてまだまだ先だと思っている方も多いと思います。しかし、状況によっては、20代、30代、40代と、若くても遺言書を作成しておいたほうが安心な場合があります。今回は、「若くても遺言書を作成しておきたい3つのパターン」をお伝えします。


パターン1「未成年の子がいる夫婦」

未成年の子がいるご夫婦のどちらかが、思いもよらず亡くなってしまったとき、相続手続きはどうなるでしょうか。

相続財産をわけるとなると年齢問わず戸籍上「配偶者」や「子」などとなっていれば相続人です。遺産分割協議といって相続財産を分ける話し合いをします。

この話し合いは成人した相続人同士だと、相続人が納得すれば、財産を全く相続しない人がいてもかまいません。例えば父が亡くなり相続人が母と子一人だとします。父の財産を相続できる法定相続分(法律で定められた基準)は、母2分の1、子2分の1ですが、子が望めば相続財産を取得せずに、父親の財産を全て母へ渡すことが可能です。

ただ、子が未成年の場合はそうはいきません。未成年の子は、法律行為(この場合は遺産分割協議)を子ひとりで進めてはならないと法律にあるからです。親権者である母は本来であれば子の法定代理人として法律行為をする立場にあります。しかし、相続においては多くの場合、母も子も共に相続人となり、母が多く相続すると子が少なくなるという財産の増減にかかわってきます。この状態で、母親が自分の権利と子の代理人という権利を2つ持つことはできません。

特別代理人を選任することになるが…

こういった場合には、今回の相続に関係のない第三者を子の特別代理人として家庭裁判所へ申し立てて選任してもらうことになるのです。

特別代理人が選任されたのち、その特別代理人と母で遺産分割協議を開始しますが、子が未成年で、親が生活や学校の支払いをしているため、親に全部相続してもらうという遺産分割協議はできません。なぜかというと、特別代理人は子が遺産分割で不利にならないように子の権利である法定相続分の2分の1は確保しなければ、遺産分割協議に同意しないためです。

未成年の親が何も対策をせずに亡くなるとこのような煩雑な手続きが待っています。

煩雑な手続きを避けるために

こうした事態を防ぐためには、「配偶者に全財産を相続させる」という内容の、父から母へ、または母から父への遺言書が有効です。どちらが先に亡くなるかはわからないからです。

未成年の子をもつ親世代は、子が将来人生をどう送っていくのかわからないことばかりです。子に財産を遺すよりも、配偶者に財産を引き継げるようにして子の生活も一緒に見てもらえるようにすることが、子が未成年のうちは最良だと考えます。

ただし、子が未成年の場合に作成する遺言書は、子が成人すると家族環境も変わってきますし、年を重ねるにつれて想いも変わってくるはずです。折に触れて内容を見直し、必要ならば書き直しをしましょう。

パターン2「不動産を購入したとき」

不動産は、相続が起こった際に分けにくい財産として上位にあがります。不動産を購入したばかりの時はとくに、預貯金をあまりお持ちでないことも考えられます。

例えば不動産を購入した本人(父)が亡くなったとき、相続人は母と、成人した子2人(長女・長男)とします。父の財産は6,000万円(不動産:5,000万円、預貯金:1,000万円)とすると、法定相続分は、母が2分の1の3,000万円、長男が4分の1の1,500万円、長女が4分の1の1,500万円となります。

不動産(家)には父と母が住んでおり、父が亡くなって母が一人で住むことになった場合、不動産は母へ引き継いだほうが都合がよいことになります。すると、5,000万円の価値の不動産を母が相続し、預貯金1,000万円を子で500万円ずつ相続するパターンが考えられます。この場合、子へ渡る財産は法定相続分を下回ることになるため、遺産分割協議の話し合いでうまくまとまればよいのですが、誰かが同意しなければ何も進みません。

話をまとめるために不動産を3人共有で持つということも考えられますが、そうすると不動産を売却等する際に、3人全員の同意がなければ進まなくなります。何事も話し合いをしないと進まないことを避けるために、住んでいる、または管理する人に不動産を相続させる内容の遺言書を作成しておくことをお勧めします。

相続の話題が出ると、「うちの財産は、預金が少しと住んでいる家だから、相続のことは考えなくても大丈夫」と、おっしゃる方が多くいます。しかし、そのような場合がいちばん、争いになる可能性を秘めているとも言えるのです。

パターン3「会社経営者の自社株等の財産」

ご自身で事業を始めた、もしくは親からの事業を引き継いだ等々の2代目、3代目経営者の方々は、会社の株式(自社株)をお持ちだと思います。この自社株も、不動産と同じく分けにくい財産に含まれます。

会社が成長すると自社株の評価額も上昇します。また、個人財産の中に、自由になる財産はさほどお持ちでなくても、個人名義の不動産を会社に賃貸していたり、会社に対する貸付金等、会社経営に関する財産が占めている割合が高い方がいらっしゃいます。相続が起こった際に上記のような財産がある場合、財産の分け方に苦労することも多く見受けられるのです。

自社株などの配分に要注意

何も対策をせずに会社経営者が亡くなると、個人名義の財産は相続人で遺産分割協議することになります。会社経営に関する財産、主には自社株が後継者以外の相続人へ分散してしまっては会社の存続にもかかわることにもなりかねません。

相続で自社株を引き継ぐことができない第三者が後継者だとすると、生前に贈与または売買するか、自社株を遺贈する遺言書を作成しなければ、後継者に引き継ぐことができません。そのほかの会社財産に関しても同じことが言えます。

会社経営に関する財産といえども、個人の財産が後継者に渡ると、その分、相続人へ遺される財産が減少することになります。ただ遺言書を作成して自社株等を後継者へ渡すだけではなく、経営にかかわっていない相続人へ配慮することも必要になってきます。

遺言書が無かった時のリスクを考えて、それを避けるために「とりあえず遺言書」を作成しておくことは必要です。状況や想いが変わった時に書き直すこともできますので、一度専門家に相談してみてください。

行政書士:藤井利江子

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