私たちは本当に戦争をしています SNSの“彼”は戦時下 ウクライナ気遣う長崎の男性

SNSでのやりとり。「爆撃は続いてますか?」という北ノ園さんの質問に対し、彼から煙を上げる建物の動画が届いた

 スマートフォンの交流サイト(SNS)で趣味のやりとりを楽しんでいた面識のない外国人が、突然戦争に巻き込まれたら…。長崎市の会社役員、北ノ園淳一郎さん(53)と、ウクライナ南部のオデッサに住む“彼”とのやりとりは、ロシアのウクライナ侵攻で一変した。戦火におびえる毎日、逼迫(ひっぱく)する暮らし-。北ノ園さんは、オンラインだけでつながる彼の安否を気遣う。
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 北ノ園さんの趣味は車やバイク。SNS上で関連画像を公開し、翻訳アプリを使って外国人とも交流している。その中で特に頻繁にやりとりしているのが彼だった。2020年8月に交流が始まり、話題は車やバイクのことだけ。彼の名前は知らず、住んでいる国も意識していなかった。
 ロシアのウクライナ侵攻のニュースを見た時、過去の履歴をさかのぼってウクライナ人であることを確認。「無事を祈ってます」とメッセージを送った。すると「ありがとう。私たちは本当に戦争をしています」という返事とともに、同国内で出回っているらしい戦火の動画が届いた。
 それ以来、北ノ園さんが彼の状況を心配し、彼が現地の様子や自分の思いを伝えるやりとりが始まった。「ロシアは侵略国家です」「オデッサは美しいところです。爆撃がなければ」…。経済的な困難も伝わってきて、苦労して1万5千円を送金した。彼からは「あなたは私をたくさん助けてくれた」「戦争が終わったらオデッサに招待する。僕の庭でウイスキーを飲みながら乾杯しよう」という感謝のメッセージが届いた。

SNSで知り合いやりとりを続けるウクライナ人の無事を祈る北ノ園さん=長崎市内

 その間も、その後も、彼からは絶え間なく近況が送られてくる。「一昨日、ロケットが撃墜された。隣人の屋根が損傷した」という言葉。地下8メートルに造った避難壕(ごう)の画像。街に空襲警報が鳴り響く動画。妻子は一時隣国モルドバに避難したという。そんなやりとりの合間に、戦争前同様、車やバイクに関するメッセージも送り合う。
 北ノ園さんのスマホは、オデッサの現地時間も表示するよう設定している。「戦争をリアルに感じるようになった。彼は生きているのかなあとしょっちゅう思う」。仮に彼が爆撃で死んだとしても知らせは来ない。どちらかのスマホが損傷すればやりとりは終わりだ。SNSだけでつながる、遠いけれど身近に感じる相手。北ノ園さんは、彼とたわいないやりとりをしていたかつての日常が戻ることを願っている。


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