前向きな翻意を

 「…神へ参るこそ本意なれと思ひて山までは見ず」-みんなが山の方へ行くのは気になったけれど、登らずに帰ってきちゃった…▲徒然草の「仁和寺にある法師」は山の上にある石清水八幡宮の場所をきちんと知らなかったばかりに、肝心の神社に参拝せず帰ってしまった残念な人の話だ。案内役がいればよかったのに、と吉田兼好はこの段を結ぶ▲開催が間近に迫った核兵器を巡る二つの国際会議、日本政府の対応がどうにも不可解だ。20日に開かれる「核兵器の非人道性に関する国際会議」には政府の代表団が派遣される。ところが翌日から始まる核兵器禁止条約の第1回締約国会議には不参加の構え▲開催地はどちらも同じウィーン。核なき未来を目指す新たな一歩と被爆国政府の不在は世界にどう映るだろう。せっかく遠くから来たのに山までは見ず、か-と▲締約国会議には「ユース非核特使」の若者がオブザーバーとして参加する。特使の委嘱元は外務省だ。〈本会合への参加は見送るものの、唯一の被爆国として締約国会議への前向きな姿勢を示す思惑がありそう〉と解説記事にあった。その複雑な思惑は正確に読み取ってもらえるのかどうか▲政府の決断ひとつで話は格段に分かりやすくなる。前向きな翻意を最後まで期待したい。時間はまだある。(智)

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