43歳主婦、脱サラ夫は経営赤字、愛犬の治療費は年200万円。赤字家計をどう乗り切る?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、43歳、会社員・主婦の女性。夫が昨年企業したものの、赤字で自分の給与も出ない状況のなか、愛犬が病気にかかり、治療費が年間200万円かかることになったといいます。蓄えを切り崩して生活していますが、このピンチを乗り切る知恵は? FPの氏家祥美氏がお答えします。


初めまして。43歳の主婦です。月収16万円(手取り12万円)の会社に勤務しています。家族構成は夫48歳と犬10歳です。3年前に夫が会社を退職し、昨年、起業しました。従業員は夫のみで、会社の経営状況は赤字です。そのため、夫自身の給与も支払えない状態です。副業として、別の会社で月10万円いただいていますが、その収入も赤字の自身の会社の経営に使っており、家計には月3万円入れるだけです。

そのため、私の給与と会社員時代の退職金や貯蓄を切り崩して生活しています。そうした中、愛犬に病気が見つかり、今後、手術費や通院費で年間200万円ほどかかることになりました。愛犬の手術費で手持ちの預金の多くを使うことになりそうですし、夫の会社経営も黒字になる見込みがありません。老後の生活費にと蓄えていた払込み済みの年金保険や株を売却し、手持ち資金を増やしたほうがよいでしょうか?

私個人としては、年金保険は今解約するよりも60歳まで待ったほうが金額が多くもらえるので、あまり解約したくありません。株も、コロナ前の価格の半値まで下落しているため、今売却するのはどうなのかと躊躇っています。しかしこのまま収入が増えない場合は、老後を迎える前に手持ち預金が尽きそうですので、保険の解約や株の売却も視野に入れなければならず、どれから現金化していくべきかご教授いただきたいと思い、応募いたしました。また、将来受け取れる年金も、厚生年金に加入していますが収入が少ないので、あまりもらえないのではと不安です。

まとまっていない内容で申し訳ございません。ぜひアドバイスをお願いいたします。

【相談者プロフィール】

・妻(私):43歳、会社員。月収16万円(手取り12万円)。給与は安く、昇給や退職金も無いが、犬の通院での早退や欠勤にも理解がある職場なので、犬が生きている間は転職は考えていない。

・夫:48歳、昨年から会社経営。赤字の為、自身の給与を受け取っていない。黒字になれば月8万円を給与として受け取る予定。厚生年金は払っている。副業収入月10万円(会社の赤字補填等で月7万円使用し、家計には月3万円入れている)。

・犬:10歳。病気で治療費に年間200万円ほどかかる見込み。ペット保険未加入。

・住居の形態:持ち家(戸建て、関東地方)

・毎月の世帯の手取り金額:15万円(妻12万円・夫3万円)

・年間の世帯の手取りボーナス額:50万円(月々の赤字補填や、犬の通院費、固定資産税8万6,000円、自動車税1万3,000円でなくなる)

・毎月の世帯の支出の目安:18万7,000円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:8万円

・食費:5万4,000円

・水道光熱費:1万2,000円

・教育費:0円

・保険料:2万1,000円

・通信費:8,000円

・車両費:2,000円

・お小遣い:0円

・その他:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:0円

・ボーナスからの年間貯蓄額:0円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):1,600万円

・現在の投資総額:1,400万円(株400万円(〔コロナ前は800万円。今後、上がるのか下がるのか不明〕、妻iDeCo〔月5,000円・現在時価300万円〕、夫iDeCo〔月5,000円・現在時価700万円〕)

・現在の負債総額:1,250万円(月8万円+ボーナス16万円支払い。返済期間12年)

・妻加入保険:年金保険(月1万6,000円・60歳で600万円受取)、医療保険(月1,800円・掛け捨て)、終身一時払保険(払済。今解約すると480万円・60歳時点で700万円受取)、終身一時払保険(払済。今解約すると550万円・60歳時点で800万円受取)

・夫加入保険:医療保険(月2,000円・掛け捨て)

氏家:夢をもって会社を立ち上げたにもかかわらず、起業1年目の夫さんはなかなか苦戦しているようですね。一般的に、起業後3年間は試行錯誤が続く時期ですが、昨今は新型コロナウィルスの影響もあって、ますます見通しが立ちにくいのかもしれません。ご相談者さんの場合、そこに愛犬の病気も重なって、羽が生えたようにお金が出ていっています。家計のピンチを乗り切る道を一緒に探していきましょう。

隠れた支出を洗い出し、赤字家計の実態を把握

今回のご相談を拝見して、まだ家計の赤字具合を正確に把握できていないと感じました。そこで最初に、家計の状況を確認していきます。

毎月の収入は15万円。内訳は以下の通りです。

◆妻(会社員・ご相談者さん):手取り12万円。
◆夫(会社経営・副業あり):副業10万円-事業の赤字補填7万円=3万円

毎月の支出は18万7,000円。内訳は以下の通りです。

◆住居費:8万円
◆食費:5万4,000円
◆水道光熱費:1万2,000円
◆教育費:0円
◆保険料:2万1,000円
◆通信費:8,000円
◆車両費:2,000円
◆お小遣い:0円
◆その他:1万円

一見、無駄のないシンプルな家計です。しかし、数字が美しすぎるという印象を持ちました。ポイントは「お小遣いが0円」なこと。洋服や化粧品代、美容院代、ランチやカフェ代、病院代、本や映画代など、日々の暮らしではこまごまとした出費がつきものですが、そのあたりが見えてきません。ご家庭によっては本当にそうした支出がない場合もありますが、愛犬に200万円の治療費を払い、夫さんが起業するというご相談者さんの場合、それなりに暮らしを楽しむ支出もあるのではないでしょうか。

「その他」1万円では回収しきれない支出があるとすれば、それが使途不明金になっている可能性があります。もしくは、「食費」5万4,000円と、夫さんの「赤字補填」7万円が、さまざまな個人的支出の隠れ蓑になっている可能性があります。いま一度確認してみてください。

ボーナス50万円の使い道はどうなっている?

続いて、年間50万円あるボーナスの使い道を確認します。使い道は以下の通りです。

◆月々の赤字補填
◆犬の通院費
◆固定資産税(8万6,000円)
◆自動車税(1万3,000円)

しかし、これ以外にも実際はボーナス支出がありそうです。例えば、住宅ローンは月々8万円のほかにもボーナス時に16万円返済しています。夏冬のボーナス月に、毎月の返済に加えて8万円ずつ上乗せして支払っているとすると、ボーナスから年間16万円住宅ローンの返済に回ります。

そのほか自動車もお持ちのようですね。毎月の車両費は2,000円とわずかです。これがガソリン代だと考えると、駐車場代などはかかっていないようです。ボーナスから支払っている自動車税は年間1万3,000円ですから軽自動車のようですね。しかし、車を持っている以上、ガソリン代以外にも、車検代やメンテナンス費、自動車保険代はかかってきます。実際のところは、月々の車両費2,000円以外にも、車両費として年間10万円くらいはかかっているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

以上をふまえて、ボーナスからの支出をまとめると以下のようになります。

◆月々の赤字補填(3万7,000円×12): 44万4000円
◆犬の通院費:200万円
◆固定資産税:8万6,000円
◆車両費(自動車税1万3,000円+α):10万円

ボーナスは50万円ですが、合計の支出は263万円。これではあっという間にお金が消えてなくなります。

世帯の実質の資産はいくらになる?

月々とボーナスの収支を見てきたので、続いて金融資産を確認します。現在の金融資産残高は、以下の通りです。

◆預貯金:1,600万円
◆投資(株式):400万円
◆iDeCo妻:300万円
◆iDeCo夫:700万円
◆払い込み済の保険(妻):480万円+550万円=1,030万円

すべて合わせると4,030万円になりますが、今後、退職金などまとまったお金が入る予定はありません。さらに、住宅ローンの残債は1,250万円あります。実質の資産は、2,780万円になります。

内訳をみていくと、iDeCoは60歳以降しか引き出せませんし、株式も現在半値になっているということでいま売却はしたくありません。払い込み済の保険2つは、すでに保険料の支払いも終わり、このまま放置しておけば老後には増えるので、できる限り手を付けないで放っておきたいところです。このように考えると、いまここに挙げた中で家計の赤字補填として使えるのは、預貯金の1,600万円だけということになります。

老後資金は極力維持。年金保険は払い済みで家計の赤字を縮小

家計全体を見渡すと、夫さんの独立以前に、夫婦で老後に向けた資産形成をある程度してきたことがわかります。今後は、目先のピンチによっていまある老後資金をなるべく取り崩さないことが重要になります。

保険には、以後の保険料の支払いをストップする「払い済み」という方法があります。解約ではなく払い済みにすることで、保障のサイズを縮小した保険を継続することができます。これまでに支払った保険料については、従来通りの予定利率で運用が続けられるのがメリットです。加入している保険によっては払い済みにできない場合もあるので、保険会社に確認してみましょう。

年金保険を払い済みにできれば、毎月の家計赤字は3万7,000円から2万1,000円まで縮小できます。このほか、夫婦それぞれ月5,000円ずつ拠出しているiDeCoもしばらく拠出を停止して運用指図者(※)になりましょう。なお、家計の状況が改善したら、ふたたび再開するとよいでしょう。

(※)資格喪失届を提出し、毎月の掛金の拠出を止め、これまで積み立てた資産の運用を続ける者のこと。

赤字経営に期限をつける

今回のご相談で一番のポイントとなるのは、「先の見えなさ」ではないでしょうか。当面をしのぐ資産はあるものの、事業の赤字がいつまで続くのかわからない、愛犬の治療がいつまで続くかわからないため、貯蓄がみるみる減っていく今の状況が不安でたまらないのだと思います。

仮に1,600万円の預貯金を取り崩し可能とした場合でも、年間250万円を超える赤字がいまのまま続けば、6年でこの預貯金はなくなってしまいます。それはいくら何でもやりすぎでしょう。

現在の家計の状況を夫婦で共有し、夫さんの事業計画を話し合いましょう。「赤字補填をなくす」「本業で月8万円の給与を得る」「副業に頼らず本業の給与を30万円にする」など段階的にステップアップする形で期限を区切っていき、それに向けた行動プランを立てていきます。

反対に、「あと2年以内に黒字化しないのであれば事業をたたむ」といったデッドラインも必要です。締め切りを設けることでより本気で取り組むようになりますし、本気で事業を継続していけば徐々に周知はされていくもの。事業内容ややり方が間違っていなければ開業から3年である程度の結果は出ると信じて頑張りましょう。

それでも難しければ、それは仕方のないこと。夫婦の老後のためにも引き際は肝心です。ふたりで力を合わせてピンチを乗り越えるべく頑張ってください。

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