扶養「106万円の壁」を超えるとどうなる? 外れて働く意外と大きなメリット

パートタイマーで社会保険の扶養に入っている人も多いでしょうが、社会保険で近年「106万円の壁」という言葉が登場しています。この「106万円の壁」を超え、厚生年金・健康保険に加入したほうが良いのでしょうか。


「106万円の壁」は社会保険に加入する条件

以前から「130万円の壁」という言葉は知られていました。社会保険制度の扶養は被扶養者自身の年収が130万円未満であることが条件のためです。

しかし、フルタイムの4分の3以上の勤務日数・勤務時間で勤務する場合や、一定の規模(従業員501人以上。ただし2022年10月から101人以上、2024年10月から51人以上)の企業で、週20時間以上勤務、月額賃金8万8000円以上であることなどを満たす場合、社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する義務が生じます。8万8000円を年額に換算すると約106万円となり、年収106万円以上で社会保険に加入することになる。これが「106万円の壁」の正体です。

社会保険料はどのように計算される?

社会保険加入の要件を満たして扶養から外れ、厚生年金・健康保険の被保険者となると、自ら厚生年金保険料や健康保険料を負担しなければいけません。その保険料は報酬によって額が決まります。会社から受け取る毎月の給与だけでなく、賞与を受け取った場合は賞与からも保険料が発生します。厚生年金と健康保険それぞれ、給与からの保険料は標準報酬月額×保険料率、賞与からの保険料は標準賞与額×保険料率で計算します。標準報酬月額と標準賞与額の上限は厚生年金と健康保険で異なりますが、基本的な仕組みは同じです。

被保険者が負担する保険料率については、厚生年金保険料率は9.15%で、健康保険料率は協会けんぽの東京都であれば4.905%(2022年4月以降の納付分)です。また、40歳以上であれば介護保険料の負担もあり、その被保険者負担分の保険料率は0.82%(協会けんぽの2022年4月以降の納付分)です。

年収106万円となる、標準報酬月額8万8000円であれば、厚生年金保険料は月額8052円、健康保険料と介護保険料は月額合計5038円の負担が発生します。給与収入が増え、例えば、標準報酬月額が20万円となった場合は、それぞれの負担保険料は月額1万8300円、1万1450円になります。給与が高くなるとその分、保険料が高くなり、所得税や住民税などの税金の負担も増えますが、一方で手取り額も増えます。

厚生年金に加入したら増える将来の年金

厚生年金に加入することによって65歳から受け取れる年金が増えます。扶養に入っていたままでは老齢基礎年金のみですが、厚生年金加入により老齢厚生年金も増えます。老齢基礎年金と老齢厚生年金は終身で受給できますので、扶養に入ったままよりも年金は厚くなります。

標準報酬月額8万8000円で10年の加入であれば、老齢厚生年金が年間約5万5000円増え、標準報酬月額が20万円で同様に10年の加入であれば、老齢厚生年金は年間12万円以上増えます(それぞれ2022年度の再評価率による再評価後の年金額)。これが一生涯続きます。標準報酬月額が高くなると、保険料は高くなる一方で、将来の年金額も高くなります。

厚くなる給付は老齢年金以外も

年金は高齢期の老齢年金だけではありません。若くても病気やケガによって障害が残った場合には障害年金が支給されることがあります。扶養のままの場合は障害等級1級・2級に該当した場合の障害基礎年金のみですが、厚生年金に加入していると1級・2級・3級を対象とした障害厚生年金を受給することもできます。2級以上の場合は障害基礎年金と障害厚生年金の2階建てで受給できることになります。

他にも厚生年金加入によって、自身が死亡した際に遺族は遺族基礎年金だけでなく、遺族厚生年金も受けられることがあります。一方、健康保険制度からは病気やケガで休んだ際の傷病手当金や出産の際の出産手当金を受けることもできます。

このように社会保険加入で保障が厚くなります。人生は何が起きるかわかりません。受けられる給付の種類が多いほうが安心できるでしょう。

加入者としての保険にもなる!

もし厚生年金・健康保険に入っている配偶者(夫)が失業した場合、自身(妻)が厚生年金・健康保険に加入していれば、その間は配偶者(夫)を扶養に入れられます。自身(妻)が厚生年金・健康保険の被保険者であれば、扶養に入った配偶者(夫)については再就職まで保険料負担はありません。つまり、給付以外の部分で見ても、社会保険に加入しておけば安心できると言えます。

社会保険はその名のとおりの保険です。将来やいざという時のために加入を検討すると良いでしょう。

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