「侮辱罪」厳罰化 ネット中傷で広がるうわさ、解雇… 被害女性が語る苦悩

インターネットによる中傷被害で「心身ともに本当にきつかった」と語る女性

 「侮辱罪」を厳罰化する改正刑法が13日、参院本会議で成立した。インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷による被害は後を絶たず、厳罰化により悪質な投稿への抑止効果が高まると期待される。ネット上の掲示板で約3年にわたって中傷された長崎県内の女性は「被害者の苦しみを分かってほしい」と訴える。

■人間不信 

 書き込みが始まったのは2018年6月ごろ。「あなたのことじゃない?」。五島市の40代女性は友人からの連絡でその存在を知った。名前や居住地など女性を推測させる文言が並んでいた。「誰が。何のために」。女性は戸惑った。
 掲示板の運営者に削除を要請したが、消されるまで2週間ほどを要し、削除されないこともあった。その後もみだらな言葉で女性をおとしめる投稿が続いた。女性の「人間不信」が募っていった。
 やがて、うわさは勤務先にも伝わった。ある日、責任者から呼び出され、事実上の解雇を言い渡された。女性は別の職場に再就職したが、新しい勤務先のことも掲示板に書き込まれ、内容はエスカレートした。「付け回されている感覚。恐怖だった」。家族にも言えず、一人悩んだ末、女性は弁護士に相談。掲示板の画像を保存するなどして証拠を押さえた。
 19年9月、プロバイダー責任制限法に基づき、掲示板の運営側に書き込みをした発信者の情報を開示するよう請求。21年3月、4回目の開示請求でようやく「犯人」を突き止めた。女性に心当たりがあった知人ではなく、その親族の男。面識はなかった。恋愛関係のもつれによる逆恨みが理由とみられる。

■民事訴訟 

 具体的事例を示して人をおとしめるのが「名誉毀損(きそん)罪」、事例を示さない悪口が「侮辱罪」。女性は男を名誉毀損罪で告訴し、県警が書類送検。裁判所は今年1月、男に罰金20万円の略式命令を出した。男が書き込みを認めたのは13件だが、女性は実際はそれよりも多かったと考える。男からの謝罪はいまだにない。
 侮辱罪は、20年、女子プロレスラー=当時(22)=が交流サイト(SNS)で中傷され自死したのを機に見直しの議論が広がった。県警によると、侮辱容疑の摘発は県内では近年ほとんどないが、昨年受理したネット上の誹謗中傷の相談は215件。被害が潜在化している可能性もあるとみられる。
 「内容が真実でなくても信じる人は信じる。うわさになって普段掲示板を見ない人にも広がっていった。ショックで、心身ともに本当にきつかった」と女性。今後、男を相手に民事訴訟を起こす考えだ。「失われた名誉」を回復させるための戦いは続く。


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