スタートアップが10億ドルの資金調達を達成するには何年かかるのか

岸田文雄首相が2022年5月にロンドンで行った講演の中で、「スタートアップ投資」に取り組んでいく方針を掲げましたが、企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」と呼ばれる、世界を変革するようなスタートアップは、どのように生まれてきたのでしょうか?

そこでスタートアップの聖地・シリコンバレーのベンチャーキャピタリスト、アリ・タマセブ氏の著書『スーパーファウンダーズ 優れた起業家の条件』(渡会 圭子氏訳、すばる舎)より、一部を抜粋・編集してスタートアップがユニコーンになるまでにかかる時間を紹介します。


10億ドル達成には何年かかる?

スタートアップがユニコーンになるまで、どのくらいの時間がかかったか見ていこう。私のデータによると、最初の資金調達ラウンドから1年か2年(たとえばアロジーン)という会社もあれば、12年以上かかった会社もある。平均は約5年だ。

10億ドルという基準に達するまで長い時間がかかる会社もある。メダリアというカスタマー・エクスペリエンス管理の会社は、10年以上かけてゆっくりと着実に成長し、初めてVCの出資を受けた時点で10億ドルの評価を得た。

メダリアはエイミー・プレスマンが、ボストン・コンサルティング・グループでキャリアを積んだあと、2001年に設立した。

出張しているとき、プレスマンはホテルの経営チームは、客がそのサービスに満足しているのか不満を持っているのかほとんど知らないことに気づいた。

彼女のもともとのアイデアは、ホテルなどサービス組織のためにベンチマークデータを集め、同程度のブランドや直接的な競合企業の顧客満足度のレベルと比較するものだった。

ソーシャルメディアの出現で、顧客からのフィードバックがかつてないほど重要になった。ネットに書き込まれる顧客の不満が、ビジネスに大打撃を与える可能性があることがはっきりしたのだ。そして好意的な意見が大きな助けとなることも。

プレスマンと創業者たちは資金調達を計画した。投資家と打ち合わせをして、ホテルに試作品を見せに行った。「(2001年)9月10日に、私たちはヒルトン・ホテルに行きました。無料体験版で売り込みをしたんです。その日はそれで終わりましたが、翌日が9・11です」とプレスマンは言う。「資金を調達できるかどうか、その時点ではわざわざ深追いすることはしませんでした」。

9・11は生まれかけの事業にとって最初の打撃となり、資金調達にも顧客にも影響を与えた。メダリアは2002年になってようやく有料顧客を得て、2003年には利益が出るようになった。収益が十分に増えたため、プレスマンは資金調達はやめることにした。

その決定について、彼女はのちに「惜しいのは名前を覚えてもらえないことでした。一流のVCの支援があれば、それが直接の信用となります。細かいところまで審査されるわけですから。私たちはその審査を受けていなかったんです」。

2008年の不況もビジネスに影響したが、同社はなんとか切り抜けて利益をあげ続けた。2011年にはメダリアの収益は3000万ドルに達し、ケイト・スペード、トリバーチ、ウエスタンユニオン、ベストウエスタン、ノードストローム、ヴァンガードといった顧客もついていた。

そのころセコイア・キャピタルからのアプローチがあった。ソーシャルメディアとオンライン・レビューが、売上を左右する重要な要因になっていた。このタイミングもメダリアのソフトウェアの成長を加速させ、需要を高める助けとなった。

セコイア・キャピタルが同社への出資を続け、2015年、創業から14年にして、メダリアは評価額12億5000万ドルに達して、ユニコーンの地位を獲得した。4年後にはIPOを行ない、評価額は26億ドルを超えた。

メダリアは他の10億ドル達成企業に比べ、ユニコーンになるまで時間がかかったが、創業者が状況をよく把握し、着実なビジネスで利益をあげ、社を成長させた。タイミングも重要で、設立直後と2008年には減速したが、ソーシャルメディアとオンライン・レビューにより顧客満足度が売上に大きく影響し、メダリアがカスタマー・エクスペリエンス管理に必須のツールになったことで急激に成長した。

アリ・タマセブ 著、渡会圭子 訳

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