値上げの波でも価格維持の牛乳 酪農家の苦悩 「来月以降が怖い」

値上げ・値上げの動きの中、店頭に並んでいる「牛乳」は価格が維持されています。ただ、その生産現場は物価高騰の波にさらされていて、酪農家は窮状を訴えています。

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広島・府中市上下町にある池田牧場です。3代目の小川香奈さんは、およそ90頭の乳用牛を育てています。

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価格高騰で、特に影響が出始めているのが、生産経費のおよそ6割を占める「エサ代」です。

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池田牧場 3代目 小川香奈さん
「エサの値段が上がっている。海外からのエサは、来るはずの便が来ないというのが、ずっと続いています」

栄養バランスを考えたエサのほとんどは、海外から輸入されたものを購入しています。

小川香奈さん
「トウモロコシや大豆カス、乾燥した牧草。日本で作ることができないので、どうしても海外からのエサになる」

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池田牧場の牛からしぼった生乳は、三原市に本社がある山陽乳業に出荷され、県内産100%の牛乳として備後エリアなどの学校給食で使われています。

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光小学校 児童
「しっかり味がするからおいしいで」

― 家で牛乳を買っている?
「うん。買っています」

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乳製品含め、さまざまな品目が値上げする中、ことしは今のところ、「牛乳の値上げ」は発表されていません。

総務省の統計調査では、4月の店頭販売価格は広島市が207円で、福山市が220円。大手乳業メーカーが値上げした2019年以降、数円の値動きはあるものの、一定を推移しています。

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生産者の経費が増えている中、すぐに販売価格に反映されないのには理由があります。

池田牧場 小川香奈さん
「ことしの乳価はこうしましょうと、話し合いで決まるが、ことしはいまだに決まらず」

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中国地方の生乳取引価格は、「広島県酪農業協同組合」などで構成される「中国生乳販連」と乳業メーカー各社が交渉して原則、年1回決められます。今年度は年度内に改定することも視野に、前の年度と同じ価格にすえ置かれました。

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小川香奈さん
「価格(乳価が)変わらないよと言っているのと一緒だと思う。(エサ代が)上がった分のフォローは自己資金でまかなう以外ない」

牛からしぼった生乳の価格(乳価)は、需要と供給の市況や生産コストなど、さまざまな要因が反映されます。ただ、生産者が独自に価格への転嫁は難しく、支出だけが増えています。

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ことしは、中国の感染再拡大、アメリカの金利政策による円安の加速、ウクライナ侵攻などを背景に、海外輸入に頼っている牛のエサは、輸送コストがかかり、価格が上昇。加えて入手困難な状況です。

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小川香奈さん
「ここまではなかった、わたしの記憶では。ウクライナ(情勢)が入ってくると、先行きの不透明さが不安になる要素。もっと上がると、これ以上、牧場をしてていいのかなと思う農家さんが増えてくると思う」

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例えば、トウモロコシの飼料は、2月が1キロあたり62.30円でしたが、4月は68.80円。6円以上値上がりしました。購入していたエサのほとんどの価格が、2割近く上がったそうです。

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小川香奈さん
「2割上がると1日に5000円ぐらい上がる。1か月15万円ほど、エサ代だけで上がる」

池田牧場では、1日に1800キロのエサが必要で、1か月のエサ代は、およそ15万円上昇していました。

小川香奈さん
「6月から次の月が怖いとしかいいようがないですね」

このほか、牛舎の土に混ぜる木くず代や、牧草を育てるための肥料代も高騰しています。

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原油価格の高騰で、24時間稼動する機械の光熱費やトラクターのガソリン代にも重くのしかかります。

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県内の酪農家は、ほぼ全てが家族経営で、現在、100軒余り。およそ30年前と比べて4分の1まで減少している中、「酪農離れ」の拍車も危惧されます。

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小川さんは、仕入れコストや人件費を抑えるなど、模索しています。

池田牧場 小川香奈さん
「できるだけレートが安いときにまとめ買いをしていて、(エサが)同じ品質になるように他メーカーさんから入れるということはあるかもしれません」

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広島県酪農業協同組合は、9月までに乳価1キログラムあたり15円以上の値上げするよう、中国生乳販連に要請しています。しかし、実現すると、店頭の販売価格も数十円ほど値上がりするため、コロナ禍で一時、落ち込んだ牛乳の消費量が再び減少する懸念もあります。

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物価高騰の対策に合わせて、「需要の拡大」も急務となっています。

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小川香奈さん
「広島県産の牛乳をちょっと高くても買うよと言ってくれると励みにはなる。酪農業は衰退していく産業になると思う」

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押し寄せる価格高騰の波…。消費者だけでなく、生産者にとっても耐え忍ぶ日が続きそうです。

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