大雨ハザードマップの盲点 ~「色が塗られていない=安全」ではない~

この時期、大雨への警戒が呼びかけられる際、「事前にハザードマップを見て、どこが危険かを確認…」といったフレーズを、ニュースや天気予報でよく見たり聞いたりするのではないでしょうか。災害リスクの高い場所で身を守るための情報の一つとしてハザードマップはとても重要です。

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一方で、ハザードマップがすべての危険性を網羅しているわけではありません。去年、犠牲者が出た土砂災害を例に、ハザードマップを取り扱う上での注意点を見ていきます。

★行方不明から1週間後に車内から…

西日本を中心に異例の長雨となった去年8月の大雨。特にお盆の頃、九州各地や広島県には、大雨特別警報線状降水帯発生情報が相次いで発表され、記録的な雨量を観測しました。この大雨で、広島県では3人が犠牲となりましたが、その現場の一つが、安芸高田市美土里町で起きた土砂崩れです。

現場は、広島県北部の山間部を走る林道です。中国自動車道の高田ICから1キロほどの場所で、安芸高田市の中心部方面へ抜けることができる道です。林道といっても車がすれ違うことができる幅はあり、路面も舗装されています。災害から10か月ほどたった今でも現場付近では、茶色い土がむき出しの状態となっています。

ここでは去年8月の大雨で、林道沿いの山の斜面が崩れ、大量の土砂や木々が道路を横切る形で流れ下りました。この土砂崩れで、安芸高田市に住む70代の男性が乗っていた車ごと巻き込まれて犠牲となっています。

走行中だったのか、付近に停車していて巻き込まれたのかはわかっていませんが、土砂に埋もれた車が見つかったのは、男性の行方が分からなくなってから1週間後のことでした。

★現場のハザードマップを見ると…

5月下旬、災害情報学が専門で静岡大学防災総合センターの牛山素行教授が調査に訪れました。

今回の現場で起きた土砂崩れ自体はよくある規模の崩壊だと言います。そんな中で、この現場に牛山教授が注目する理由…。それが現場の「ハザードマップ」との関係です。

今回の現場のハザードマップを確認すると、「土砂災害危険箇所」や「土砂災害警戒区域」といった土砂崩れのリスクがあることを示す色は、まったく塗られていないのです。

★リスクあっても色が塗られないケースが…

ハザードマップでは、「土砂災害の危険性あり」として色が塗られているのは、主に地形図から土砂災害の危険性があると判断された「土砂災害危険箇所」、さらに現地調査なども含めて細かく調査して指定する「土砂災害警戒区域・特別警戒区域」などがあります。

ただ、この指定には見落とされがちな注意点があると牛山教授は指摘します。

今回の現場から、最も近い建物までの距離は500メートル以上離れています。現場のすぐ近くには建物は見当たりません。

こうした周囲に建物がない場所では、たとえ林道沿いの斜面で土砂崩れが起こるリスクがあったとしても、危険エリアとして指定されることはないといいます。今回と同じような山間部の林道は、日本全国どこでも珍しくありません。

★そもそも大雨時の車の移動は危険を伴う

さらに牛山教授が指摘するのは、ハザードマップで危険な場所が指定されているかどうかの以前に、そもそも大雨の際に車で移動することの危険性です。

去年8月の大雨で広島県では、他にも車の移動中に災害に巻き込まれたケースがありました。広島市安佐北区の鈴張川沿いでは、陥没した道路に車が転落。乗っていた60代の女性が犠牲となっています。

同じようなケースは4年前の西日本豪雨でも相次ぎました。

牛山教授の調査では、2019年までの20年間に全国で起きた風水害で犠牲となった人は1373人。被災した場所は「屋外」と「屋内」の割合がほぼ半数ずつとなっています。

そして屋外で犠牲となった人のおよそ3分の1は「車内」で被災しているといいます。

近年、急速にハザードマップの精度が向上し、かなり細かく危険エリアが指定されるようになってきました。一方で、ハザードマップの重要性が強調されすぎることで、そこに載っている情報だけで判断してしまうケースも増えているようにも感じます。そもそも車で移動している時などは、どこが危険かを瞬時に確認することは非常に困難です。

ハザードマップにすべての情報が網羅されているわけではないこと、またそもそも大雨時にいつも通りの行動をすべきかどうか、あらためて考え直す必要があるのではないでしょうか。

(RCCウェザーセンター 気象予報士 岩永 哲)

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