28歳独身公務員「安定を手放してイラストレーターとして独立するのは無茶ですか?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、28歳、公務員の女性。趣味でSNSに投稿していたイラストが、評判となり、本格的に活動したいと考える相談者。副業できる会社に転職するか、本業として一本でやっていくか悩んでいるといい、アドバイスがほしいといいます。FPの氏家祥美氏がお答えします。


28歳公務員です。趣味でイラストを描いてSNSに投稿していますが、DMで絵の依頼をされることが増えてきて本格的に活動したいと考えています。

そのためには、副業禁止のため仕事を辞めるしか方法がありません。正直、公務員の仕事は自分に合っていない気がしていますし、絵の仕事をすることは自分の夢だったので、辞めることに未練はありませんが、経済的な不安から躊躇してしまいます。

副業できる会社や派遣等で勤めながらイラストレーターとして活動することも視野に入れていますが、独身かつ実家も離れており(実家は低所得層)、経済的に頼れる人もいないので、この歳で不安定な職に転職して大丈夫なのか不安です。

自分のやる気次第なところもあるかと思いますが、何かアドバイスいただけると幸いです。

【相談者プロフィール】

・女性、28歳、公務員、独身

・住居の形態:賃貸(近畿地方、一人暮らし)

・毎月の世帯の手取り金額:20万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:70万円

・毎月の世帯の支出の目安:13万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:5万5,000円

・食費:3万円

・水道光熱費:1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:2万5,000円

・ボーナスからの年間貯蓄額:11万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):480万円

・現在の投資総額:81万円

氏家:今回は、イラストを描くのが好きで独立や転職を考えている28歳公務員さんからのご相談ですね。ご本人がおっしゃる通り、「やる気次第」ですね。SNSによる絵の依頼が増えているのは素晴らしいこと。そんなこともあって自分の力を試してみたい気持ちがあふれています。

「公務員の仕事はあっていない」「絵の仕事をすることは自分の夢」とのことですし、「やめることに未練はない」とまで書いているので、絵の道に行かれた方がいいでしょう。このまま副業禁止の公務員を続けて、イラストを趣味にとどめているときっと後悔します。

問題は、それを「いつ」「どうやるか」ですね。現在の経済状況を確認しつつ、リスクを抑えた独立プランを検討していきましょう。

まずは現在の家計状況の整理から

ご相談者さんの家計状況をみていきましょう。手取り月収は20万円ですが、毎月の支出は13万円となっています。28歳の一人暮らし女性で家賃を含めた支出が13万円というのは堅実ですね。13万円のうち、住居費5万5,000円、水道光熱費1万円、食費が3万円と書かれています。残りの3万5,000円の使途は書かれていませんが、通信費、洋服や理美容費、書籍代や日用品などもろもろの出費と理解しました。

毎月の貯蓄は2万5,000円です。積立などをしているのでしょう。支出が13万円、貯蓄が2万5,000円なので、実はあと4万5,000円が残っています。こちらについても使途がかかれていないため、想像で進めさせていただきます。投資の残高があることから、つみたてNISAなどでいくらか投資をしているのでしょう。残りは、家具家電の買い替えや、お出かけなどのイベント支出、イラストを描いているとのことなどで機材や絵の道具などの購入や、学びのための支出などもあるかもしれませんね。

そんなわけで、確実にできている貯蓄は以下の通りになります。

毎月の貯蓄:2万5,000円×12カ月=30万円
ボーナス貯蓄:11万円
年間の貯蓄合計:30万円+11万円=41万円

現在の手取り年収が、20万円×12カ月+70万円=310万円ですから、手取り月収の13%を確実に貯蓄に回しています。実際はこのほかにも投資をしていますし、余ったお金も貯めていると思われるので、もう少し貯蓄率は高いと思われます。

その結果、28歳現在の金融資産残高は、貯蓄480万円+投資81万円=561万円 となります。

28歳独身だからこそ、自分の意思で挑戦しやすい

やりたい気持ちが強い反面、ご相談の後半には「不安」な言葉があふれています。その理由は、

・現在独身で配偶者に頼れないこと、
・実家から離れており経済的にも実家には頼れない

ということでした。

確かにこれらは不安要素ではありますが、独身だからこそ、自分のお金と時間を自分の意思で自分のためだけに使うことができます。これは大きなメリットです。家族ができるといざというときに頼ることができますが、パートナーとのすり合わせが必要になります。また、もっとご相談者さん自身の年齢が上がってからだと貯蓄は増えますが、今度は親の年齢も上がってくるので親へのサポートが必要になってくる可能性があります。

現在の28歳という年齢と独身という立場は、自分の許容範囲内であれば、自分の好きなことやりたいことにチャレンジしやすい状況と言えるでしょう。

イラストを仕事にするための2つの道

働き方としては、大きく2つの道があります。1つはイラストの仕事を本業とすることと、2つめは副業可とする別の会社に転職して副業でイラストを販売していく方法です。

イラストを本業とする第一の方法の場合、イラストレーターとしての開業届を出しましょう。すでに見込み客も付き始めているということですから、まずはそのニーズに丁寧に答えていきます。合わせて、自分の作品が乗ったホームページなども用意していき、営業活動を行いましょう。安定した生活費を得るまではしばらくかかるかもしれませんが、好きなイラストの仕事に24時間注力できる自由があります。世の中には雑誌やウェブサイトなどさまざまな媒体がありますから、そうした媒体にイラストを使ってもらえないか売り込んでみたり、自分のイラストを使った商品を作成してオンライン上で販売してみたりと、知恵を使ってやれることを片っ端からやってみましょう。

イラストを副業とする第二の方法の場合は、副業可の会社に転職することになります。転職先の選び方には大きく2つあって、イラストの仕事に役立ちそうな会社を探すか、業種は問わずに残業の少ない会社を探すことになります。前者の場合は学びや経験値が得られる可能性に期待できますが忙しくなりすぎるとイラストの時間があまりとれなくなります。後者の場合はイラスト時間を確保しやすい反面、仕事内容には興味が持てないかもしれません。お金のために働くというイメージです。

悔いが残らないように、方法とタイミングを考えよう

第一の本業の道と第二の副業の道のどちらを選ぶかは、ご相談者さん自身の本気度や、イラストの技術などによります。ただ、公務員を辞めてまで本気でイラストレーターとして活躍したいと考えているのなら、イラストを本業とする第一の道にチャレンジしてみてもいいのではと思いました。自分を追い込んでとことんやれるだけやってみた方が成功の可能性が高まりますし、万が一うまくいかなかった場合にも悔いが残りません。

ぎりぎりパターンの生活費

早い段階でイラストの仕事が軌道に乗ることを期待していますが、もし、思ったようにうまくいかなかった場合には、どんな生活になるのかも考えておきたいところ。そこで、ぎりぎりパターンの暮らしを想定したところ、以下のようになりました。

生活費:13万円
社会保険料:4万円
イラスト経費等:2万円
合計:19万円

ぎりぎりの生活ということで、1か月の生活費を13万円としました。独立後に大きな負担となるのが社会保険料で、国民年金保険料が月額1万6,590円と、任意継続被保険者となった場合の健康保険料を合わせて4万円としています。任意継続被保険者の保険料は、退職時の標準報酬月額をもとに計算されますが、これまで労使折半だったところを退職後は全額自己負担することになります。特に退職1年目は負担が重く感じるでしょう。

このほか、イラストにかかる経費も2万円としています。もっと売り上げが上がるようなったら、売上の中からさらなる投資をしていくことになるでしょう。

これらを合計すると1か月あたり19万円になります。12カ月で228万円ですね。これを2年続けると、456万円になります。現在の金融資産が561万円なので、独立後、2年間売り上げが上がらないと、ぎりぎりの生活をしていても資産が100万円を切ることになります。

なお、6月頃になると前年の所得に対して住民税の支払いが待っています。退職した翌年は18万円前後になると思われます(お住まいの自治体や、各種控除によって金額は変わってきます)。このほか、所得税は売上が上がってくるとかかりますが、ここではうまく稼げなかった場合を想定しているため、計上していません。

デッドラインを決めて取り組んでみる

資産が100万円を切ると、かなり危険ゾーンなので、自立した暮らしを求めるなら再就職をする必要があります。このように、最悪の場合のデッドラインを決めておき、そこに陥らないように、それまでは本気でイラストに取り組んでみるという道もあるのではないでしょうか。

まだ年齢的にもお若いですし、これまでも公務員としてしっかり働いてきているため、転職しようと思ったら次の仕事は比較的見つかりやすいと思います。だからこそ、もし公務員を辞めて夢にチャレンジをするのなら、副業といった安全な道よりは、イラストに集中する道をお勧めしたいと思いました。

最終的に決めるのはご相談者さん自身です。今後の道を選択する際の参考になれば幸いです。

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