投票日

 選挙戦のさなかに放たれた銃弾の衝撃が、まだ消えない。安倍晋三元首相が銃で撃たれ、命を奪われた事件は、容疑者の男が犯行に至るまでの経過や背景が少しずつ明らかになり始めた。周到な準備をうかがわせる事実も伝えられる▲ただ、男の行為が「民主主義への挑戦」などと“上等な”名前で呼ばれることに、実は強烈な違和感を覚えている。思い込みと短絡と不寛容の果ての暴発-それ以上の意味を持たせてはならない、持たせるべきではないと思う▲一方で、そうした不寛容の「芽」のようなものは、社会のそこら中にあふれているように思えてならない。「多様性」が合言葉のように唱えられる今、なのに▲その芽は、ひょっとしたら、他党が政権を担当した時代を繰り返し「悪夢」と呼んだ彼の中にもあったのかもしれないし、そんな彼の発言や政治手法にしばしば強い反発を感じていた私たちの胸の奥にも見つかるのかもしれない▲改めて思う。異なる立場や意見が存在することを受け入れ、時にはため息をつきながら、それでも対話や議論の可能性を絶対に諦めない-そんな社会でありたい▲参院選投票日の朝だ。記載台で鉛筆を握る指にいつもより力を込めたい。投票の力を信じることは不寛容の連鎖を断つための何かにきっとつながっている。(智)


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