サイドFIREの節税効果とは?控除を活用した資産形成テクニックを税理士が解説

FIREとは「Financial Independence=経済的自立」と「Retire Early=早期退職」の頭文字を取ったものです。定年より早く仕事を辞めて投資などの資産運用で生活費をまかなう、といライフスタイルのことです。働かずに生活する、そんな夢のような話が夢で無くなったら「なんて……喜ばしい!」と思いますよね!

しかし、資産運用のみで生活をまかなうためには、年間の生活費の25倍の金額を年利4%の利回りで運用するという、「4%ルール」という考え方があります。まず年間の生活費の25倍の金額を準備する必要がある、ということですね。例えば、月10万円の支出がある方は3,000万円になります、これはなかなかハードルが高いのではないでしょうか?

そこで、完全に仕事を辞めてしまわなくても、自営業でほどほどに働きながら半分を資産運用で獲得する「サイドFIRE」も注目を集めています。しかも、この働き方はかなり節税効果がある上に、準備する資産がFIREの半分でよいので、現実的で実現しやすそうですよね。サイドFIREを目指す上でどんな働き方が節税効果があるのか−−お笑い芸人で本物の税理士、税理士りーなが解説します。


個人事業主の節税効果とは?

個人事業主のサイドFIREの場合は、自営業でほどほどに仕事をしている状態となるので、開業届を税務署に提出しておくことで、収入が「事業所得」という分類になります。ただし、毎月収入を得ているなど、継続的に活動しているという事実が必要です。年に数回しか売上がなければ「雑所得」に分類されて、税金の取り扱いも違うので要注意です。

事業所得はその年の状況に応じて儲かったり損してしまったりということも起こります。例えば事業を始めた最初の数年は、まだ取引先も少なくて売上もほとんどなく、むしろ初期の設備投資などで経費の方がたくさん出ていく、ということもよくあります。

そんな、事業所得で出たマイナス(赤字)は、事業とは別で得ている「給与所得」や「配当所得」などから引くことができます。ただし、条件が2つあります。

(1)開業届を出している、
(2)事業として継続的に行なっている

これらが同時に満たされれば「事業所得です!」と言うことができ、赤字をマイナスとして計算させてくれるのです。2つの条件を満たさなければ、「雑所得」となり、たとえ利益がマイナスだったとしても「マイナスは0円として計算しなさい」というルールがあるため、他の所得から引いてもらうことはできません。

この事業所得のマイナスがあれば、事前に税率20.315%(所得税15.315%、住民税5%)を引かれている配当所得について、申告不要ではありますが、所得税の確定申告を行うことで所得税の還付金額をより多く受け取ることができるようになります。

例えば、配当金を年間60万円もらったとして、何も知らずに申告不要のままにしておくと、20.315%の税金(121,890円)が事前に引かれた状態です。事業所得で年間20万円のマイナスが出ていたとしたら、迷わず確定申告しましょう!

合計所得金額=60万円―20万円= 40万円

全員が必ず引いてもらえる「基礎控除」というのが48万円あるので

40万円 ― 48万円 < 0円

これだけで、課税される所得金額は0円になるので、源泉徴収で引かれていた税金 121,890円が全て還付されます。約12万円の税金が還付として自分の銀行口座に振り込まれるんですから「なんて……喜ばしい!」ですよね。 しかし、知らない人は損をしてしまいます、なんて……嘆かわしい!

「自分の収入ならどうなるだろう?」「申告した方が良いのかどうか?」と疑問に思われた方は、いろいろな控除なども加味して計算するのは難しいので、国税庁のウェブサイトで確定申告書を作成できるページがあるので、試しに1年分の予測金額を入力して、試算してみてください。

アルバイト・パートも節税効果大!

サイドFIREで少しだけアルバイトやパートをする場合は「給与」をもらうことになりますが、この「給与所得」という稼ぎ方は、税金の計算をするとき、はじめに最低でも55万円の「給与所得控除」があり、それを超えた分が税金のかかる「所得」となります。

例えば月5万円のアルバイトをしていたら、「給与の年収60万円 ― 給与所得控除額55万円 = 5万円」となり、1年を通して確定申告で5万円の部分にしか税金がかからないということです。

これらの控除の知識から導かれる、最もお得な稼ぎ方は……

  • 配当所得をゲット(源泉徴収で約20%引かれている)
  • 開業届を出して事業所得をスタートし、マイナス(赤字)または65万円控除(青色申告)を活用
  • アルバイトを少しして給与所得を55万円ぐらい稼ぎ、控除で0円にする
  • これらの所得を確定申告して還付金をゲット!
  • 配当金を確定申告書にどれくらい記入して申告するか、国税庁のサイト「e-Tax」で事前にチェック
  • 配当金を申告する場合、その分の還付金もゲット!

これだけできたら、生涯財産が大きく変わってきますね!

節税効果は家族にも!

FIREは生活費の全てを投資などの資産運用でまかなうので、もし運用資産が株や投資信託などの金融商品のみの場合、その収入は、株の売買益で得られる「譲渡所得」か、利益の分配から得られる「配当所得」だけになります。

これらは、NISA口座の場合は税金がかからないので当然申告は不要ですし、一般口座の配当金や特定口座の配当&売買益であっても「源泉徴収あり」に設定しておけば、事前に税金が引かれているので、申告をしなくてもOK!ということになっています。株主優待をゲットしている人も、もちろん送られてくるギフトカードや食べ物は非課税ですから、申告などは必要ありません。

つまり、所得税の計算をするときに、これらを確定申告書に書かなくてもよいのです。言い換えると「私は収入がありません!」という確定申告書を作りあげることができる−−本当は年間何百万円もの収入があるのに、確定申告書上では「収入なんてありません」と言えるのです。

本当は配当所得があるにも関わらず、確定申告書で「収入ありません」ということによって、自分の税の話にとどまらず、家族の扶養に入ることができます。税の扶養に入ることで家族の税金が38万円×税率分も安くなったり、国民健康保険料が安くなったりもします。高齢の方なら医療費が1割負担になりますし、家族全体で非課税世帯と判断された場合には非課税世帯にのみ配布される地域ごとの補助金がもらえたりと、お得な話が広がっていくことになります。

なお、住民税の非課税のボーダーラインは地域ごとで違うルールが設定されています。どの自治体も、おおよそ所得金額の合計額で38万円から45万円ぐらいに設定されています。一番低い38万円のラインで設定されている地域の場合は、上記のお得なパターンであっても住民税の課税対象になってしまうことになります。ご自身の自治体は所得がいくらで非課税か、いくらになると住民税「均等割」という全員にかかる定額基本料金のようなものがいくらかかるのか、自治体のウェブサイトで確認しておきましょう。

そして、税金の試算サイトを活用して、自分はどの金額で申告書を作ることが一番有効か検討してみてください。


知っている人だけがトクをして、知らない人は気づかない−−知識は手元に残るお金を増やしてくれます。

もしFIREを目指すなら、これらのテクニックも併せて活用すれば、さらに達成が近づくこと間違いナシです! ぜひ一緒に学んで、「喜ばしい」人生を歩んでいきましょう。

© 株式会社マネーフォワード