「異質さ」つなぎ地域共生社会へ 刑事司法と福祉が相互理解 長崎県諫早でシンポ

司法の10年について話す荒前日弁連会長(右)と林前検事総長(中央)=諫早市、南高愛隣会

 「『罪に問われた障がい者』の支援を新たなステップへ~ともに地域で暮らし続けるために」をテーマにした「共生社会を創る愛の基金」のシンポジウムが30日、長崎県諫早市福田町の社会福祉法人南高愛隣会であった。基金設立から10年。福祉と司法、医療の各分野から、当事者の立ち直りを支える方策が進展した状況を分析し、今後目指す地域共生社会の姿を模索した。
 基金は厚生労働省文書偽造事件で無罪になった村木厚子元事務次官が、国の損害賠償金を南高愛隣会に寄付して設立。シンポジウムは村木氏がコーディネート役を務め、動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信した。「司法の10年」のテーマでは林眞琴・前検事総長と荒中(あらただし)・前日弁連会長が登壇した。
 林氏はこの10年間について、刑事司法と地域社会との「あいだを繋(つな)ぐ」取り組みだったと総括。刑事司法の側は、支援ニーズのある対象者を地域社会(福祉)につなぐことで再犯防止を図る一方、福祉の側は把握できていなかった対象者が発見され、支援できたと双方の利点を分析した。ただ、刑事司法と福祉とでは理念と目的が異なり、連携することには批判もあったと明かし、「異質さ」を相互に理解してつながりが可能になったと述べた。
 制度設計に携わり6月に成立した改正刑法については「つなぐ行動を推進する」と期待を示した。
 荒氏は全国の弁護士会の約6割が、社会福祉の専門家や、出所者を福祉支援につなぐ地域生活定着支援センターと連携し、「事件だけでなく、その人の生きざまを見ながら資質に応じて対応していく」と当事者に寄り添った取り組みを進めていると説明した。
 村木氏が検察と弁護士の連携について問うと、林氏は「検察が不起訴にしたときに、福祉につながる仕事は検察だけではできない。検察と弁護士は同じ方向で協働できる」と述べた。また刑事司法と地域との関係について荒氏は「自分の地域の一員として活動できることを考え、少しずつ手を貸す役割を担うと地域は変わっていく」と提言した。
 各分野の登壇者は、昨年亡くなった南高愛隣会の田島良昭元理事長の活動がこうした連携や制度の進展に寄与しているとして、遺志を引き継ぐと誓った。野澤和弘植草学園大副学長は「地域福祉って何だろう。社会の文化を変える取り組みをして、福祉が手を離して利用者を地域住民に戻していく」と問題提起した。

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